〜憑神縁日事変〜
作:ヤドカリ様
| 響き渡る祭り囃子についうきうきとしてしまうのは世代を問わないようで。 「お祭り、楽しみだね!!」 着替えさせてもらったばかりの浴衣に身を包んだ花奈は、嬉しそうに彼女を見上げた。 「そうね、久しぶりなんだから。いっぱい楽しみましょう」 その二人の後ろでは花奈の姉である千代子が携帯をいじって文句を言っている。 「うへぇ、圏外?どんだけー」 二人はそれに苦笑して。 「ほら、そんなの仕舞って。せっかくなんだし楽しみましょうよ」 「そうそう、お姉ちゃんいつも携帯見てばっかだよ?」 二人の言葉に、千代子は唇を軽く尖らせた。 「むぅ、全く……仕方ないわねぇ。付き合ったげるわよ」 そういって携帯をしまい込むと、花奈の手を握った。 「ほら、行くならさっさと行くわよ!!」 そう言って歩き出す彼女に、二人は笑って追随する。 3人で笑いあう、なんだか久しぶりだと彼女は思った。 彼女、花澤ゆうきの夫が病で倒れてからすでに数年が立っていた。 幼い子を二人抱えた状態で、彼女は生きて行くためにせわしなく働かなければならなかった。 昼もよるのもない生活が続き、時には愛する我が子を恨んだことすらある。 けれど、千代子も花奈も彼女にとってかけがえのない娘であったのだ。 生意気な口を聞くしすぐに泣くけれど、かけがえのない、可愛いかわいい娘であった。 そして、自慢の娘たちでもある。 だから彼女は頑張れた。 けれど彼女が頑張るほど、家族での触れ合いの時間は減っていく。 もう、ここ一月程子供たちと顔を合わせて食事をとっていないのではないか。 子供たちは、心配ないというけれど。 子供たちと遊べる時間を取れないことが、なんとも辛かったのだ。 だから、ようやくとれたたまの休みに子供たちを連れだした。 どこへ行こうとも決めていなかったのだが、都合のいいことに近くで縁日をやっていたのだ。 これ幸いとばかりに、彼女たちはそこへ足を向けた。 普段訪れることのない古びた神社ではあったが、その縁日は驚くほどに規模が大きいものだった。 入り口のところで浴衣の貸し出しまでしてくれるというのは、他には見られないものだ。 浴衣を着せてもらった花奈は、大喜びしている。 「千代子も借りればよかったのに」 彼女も浴衣を借りて袖を通しているのだが、それは今までに見たことがないほど見事なもので、借り物だとわかっていてもついつい浮かれてしまう。 千代子は、なんかださいと言って着なかったのだが。 「人間から作った着物って、こんなにキレイになるのねぇ」 貸浴衣屋さんが目の前で披露してくれた浴衣の製作過程。 彼女たちと同じ年頃だろう母娘がみるみる浴衣に変わっていくのは、なんとも不思議で面白い光景だった。 よくよく見れば、彼女たちの面影がどことなく残っているような。 そんなことを考えていると、先頭を行く花奈がとある出店の前で足を止めた。 「お母さんこれ食べたい!!」 香ばしい匂いを漂わせているのは、せんべいの出店だ。 ソースたっぷりの大きめのせんべいを、客の目の前で焼きあげてくれる。 「あら、美味しそうねぇ」 確かに、なんとも美味しそうである。 「すいません、3枚もらえます?」 「アイヨ、3枚ダネ!!」 注文に、店主はすぐにも頷いて彼女たちの後ろに並んでいた3人組目掛けて左手のソースをぶしゃとぶっかけた。 全身ソースまみれになった少女たちは、てくてくと鉄板の前まで歩いてくるとその上にひょいと飛び乗っていく。 「オイシイノガデキルヨ!!」 それを、店主は大きな右手でバシンバシンと叩いて潰していった。 鉄板の上には香ばしい匂いを漂わせるせんべいが3つ、いい感じに焼けている。 「楽しみだね」 家族さんにでわくわくと待っていると。 「デキタヨ」 あっという間に焼きあがった3つのせんべいが出てきた。 どれもこれも大きめでアツアツだ。 一口かじれば、それだけで旨みが口中に広がった。 「おいしいじゃん」 難色を示していた千代子も、意外そうにポツリとそう漏らすのだった。 せんべいを綺麗に平らげた一行は、いろいろな出店に寄り道しながら縁日を回っていく。 綿あめを食べ、型抜きで遊び、射的を眺めた。 皆ではしゃぎ、皆で盛り上がる。 最後の方には千代子も積極的に祭りを楽しんでいて、面白そうな屋台を見つけるなり大はしゃぎして花奈と一緒に向かっていっていた。 「うん、来てよかったな」 二人の笑顔を久し振りに見ることができた気がして。 二人を後ろから眺めながら、ゆうきは一人うなずいていた。 これでまた、明日からも頑張れる。 そう思ったのだった。 そんな時だ。 「こまったなぁ」 そんな声が聞こえたのは。 真横から聞こえたその声に、そちらを向いてみればいつの間にやら宮司の姿をした少女がひとり立っていた。 あいくるしいその姿に庇護欲を掻き立てられ、彼女はつい声をかけてしまう。 「どうしたの?」 突然声をかけられて驚いたような表情を少し見せたが、少し離すと落ち着いて答えてくれた。 「実は、チョコバナナを食べたいの」 そう言いながら、二人が背にしている出店を指さした。 明かりがついていなくて気がつかなかったがそれは確かにチョコバナナの出店だったのだ。 しかし、明かりがついておらず店員もいない。 「うーん、店員さんいないみたいねぇ」 彼女の言葉に、少女は残念そうに頷いた。 「そうなの」 そして、遊んでいる千代子と花奈を眺めて。 「チョコも、バナナも揃っているのに。店員さんがいないの」 「材料は揃っているのか……だったら、すぐに戻ってくるんじゃない?」 少女は首を横にふった。 「まだいないから無理」 そして、彼女の方を見て。 「ねえ、チョコバナナ屋さんにならない?」 そんなのダメよ、怒られちゃうわ。 そう、言おうと思ったはずだ。 けれど、言葉を紡ぐはずの口は動こうとせず思い通りの言葉を出すことは出来なかった。 いや、それだけではない。 全身が言うことを効かなくなってしまったようで、彼女の体はピクリとも動かなくなってしまったのだ。 「ううん、チョコバナナ屋さんになってね」 少女は笑って、手に持ったおはらい棒をこちらに向けて振るった。 光も音もない、けれど変化は劇的だった。 彼女の下半身が溶けるように一本になり、ずんずんと太くなって有機的なカーブを描く。 甘い香りが漂い始めて、一体化した下半身は鮮やかな黄色に姿を変えた。 それはどう見ても、下半身まるまるの大きさを持つバナナだ。 両手も同じように、それぞれが一本の大きなバナナに変わっていく。 そうかと思えば、彼女の胸周りは中身が空っぽの透明な器に変わった。 髪の毛も数本ごとにまとまってバナナのように姿を変えていく。 そして、彼女のポニーテールもまた大きな一本のバナナヘと姿を変える 周囲に芳醇な匂いを漂わせて、変化は止まった。 そう、彼女はチョコバナナ憑き神になってしまったのだ。 「うーん、いい匂い。楽しみだなぁ」 お社憑き神の言葉に、チョコバナナ憑き神は頷いた。 そして、遊んでいる娘のもとへ向かうと。 ぴょんと飛び上がって下半身のバナナを大きく開き、その皮で花奈を閉じ込めてしまう。 「ふへ?」 目の前で突然起こった事態に、千代子は変な声を上げた。 チョコバナナ憑き神はそちらにも素早く向き直ってポニーテールのバナナをちぎって千代子に向かって投げる。 ポニーバナナはすぐに生えてきた。 空中でくるくると回りながら器用に皮を広げたバナナは、そのまますっぽりと千代子に覆いかぶさって閉じてしまう。 人一人分の大きなバナナが、目の前に出来上がった。 その表面には、驚いた表情の千代子が浮き出ている。 下半身のバナナの表面に体を浮き上がらせる花奈を撫でて、チョコバナナ憑き神はニッコリと微笑む。 「良カッタわね、花奈。ばなな好キダモンね」 「うん、バナナ大好きー」 その中では、花奈が姿を変えつつあった。 体が色を失っていき、グニグニと四肢が溶けるように形を変え一体化していく。 次第に動くことも、声を出すこともできなくなりながら彼女の体は柔らかくなっていった。 完全に人バナナとなってしまった花奈を皮の上から優しく撫でると、目の前にあるバナナを手に取る。 先ほどまで人間サイズだったバナナは片手で持てる程度の大きさになっていて、皮をむくとその中から茶色いチョコになった千代子が姿を現した。 「千代子モ、ちょこ、好キダッタモンネ」 うんうんと頷いた彼女は、それを頭からバリバリと砕いて食べてしまう。 そのたびに、彼女の胸の器にどろりととけた美味しそうなチョコレートがたまっていった。 完食する頃には、そこはいっぱいになっていて。 「オイシイちょこばななニナッテネ」 愛しい娘たちが美味しくなれるように祈りを込めて、彼女は胸のチョコを下半身のバナナの中へと流し込んでいく。 ドロリと皮の間を流れるチョコはバナナの上半分を余すところなくコーティングして固まった。 「イイ感ジ」 それを感じ取った彼女は、下半身を切り離す。 下半身はすぐに生えてきたが、目の前にはやはり等身大のバナナが残った。 それを手に持とうとすると、サイズはすぐにも持てるサイズに変わる。 「デキマシタ」 それをわくわくとした気分で待っていたお社憑き神に渡すと、お社憑き神は大いに喜んだ。 皮を器用に剥くと、中から可愛らしいいバナナが出てくる。 チョコレートで綺麗にコーティングされているバナナはとても美味しそうだ。 「可愛い!!」 そして、頭からぱくりと食べていく。 噛めば噛むほど甘みと香りが広がった。 「おいしい」 お社憑き神の言葉に、チョコバナナ憑き神は胸をはって答えた。 「自慢ノ娘達デスカラ」 |