〜憑神事変異伝〜
作:初ヶ瀬マキナ様
――目の前の光景は、一言で云うならば「悪夢」だった。 悪夢は、この世界にあってはならない最悪の事態を指す言葉である以上、軽々しく口走るべき言葉じゃないけど、 私が目の当たりにしている光景がそれに当てはまることは……誰もが認めることだろう。 あってはならない……この場合、それは起こることでも起こらない事で当てはまるけど……今私の目の前で発生している事態は――起こりえない事だ。 誰が想像できるだろう……。 塾の帰り道、使い慣れた薄暗い裏通りの近道で、蛾と女性を融合させたようなそれが、私の親友――古賀 結(こが ゆい)を目の前で襲っているだなんて。 「……あ……あぁ……」 私は呆然としたまま、へたり込んでしまった。ぺたん、と言う音と共に、昼間の熱がすっかり止んだコンクリートの仄かに冷たい感触が私に伝わってくる。 私の視線の先で、結は私と同じように地面にへたり込んでしまっている。 私と違うのは、その腰回りが完全に何かねばねばしたものに覆われて、それが地面と結を縛り付けているらしいことだ。 身に付けている服は、何故か所々虫が喰ったように穴が開いている。まるで水しぶきが跳んだ跡のように、それこそ規則性も感じさせないような穴が開いているのだ……。 結の顔は……暗がりと位置関係のせいでよく分からない。完全に蛾女の影になってしまっているのだ。不思議なことに、叫び声は全く聞こえない。 叫んでも良いはずなのに……。蛾女は、結に向けて風を送るように、瞳のような模様がうっすらと見える羽を動かしていた。 薄明かりにちらちらと舞う粉……埃とは違うそれが、結に向かって吹き付けられていく……。 次第に結の体の動きが、目に見えて鈍くなっていく――まさか、あの粉……毒鱗粉!?それが結の体を――!? がばっ、と空気を巻き込む音が響いたと思うと、蛾の化け物は股を開きつつ、結に全身でのし掛かっていく! 四本の腕のうち、二本で結の腕を捉えて、ねばねばした物を腕へと広げていく。そしてもう二本で、結の顔を蛾女のそれに近付けていく! ――化け物のなすがままにされ、結はキスを奪われた。確か初キスだろうに……。 だがそんな事なんて蛾女には関係ないことだろう。そのまま顔を押しつけ、貪るように迫っているみたい……。 目に見えて、結の全身から力が抜けた。それこそ、起き上がっていた体が、ぐにゃりと仰向けに倒れるのが化け物の体越しに見える。 頭は二本の腕によって支えられたままらしい。蛾娘の、臀部から直接盛り上がっている昆虫の腹部が、興奮しているかのようにピコピコ上下に揺れる。 それとは対照的に、結の体は震えすらしない……。蛾女は、その股間を、まるで'印'を付けるかのように結の体に擦り付けていく。 その度に、結の周りを、異常に濃い密度で蛾女の鱗粉が舞い、薄明かりを乱反射させていく……。 「――ッハッ!ハッ!ハァアアッ!」 いつの間にか口を離した蛾娘が、興奮しきったような喘ぎ声を漏らしながら、腰を結に打ち付けて沿わせていく! 段々とその姿は舞い散る鱗粉にかき消され、シルエットだけしか見えなくなってきているが――音ははっきりと、私の耳へと届いていた。 目の前で行われる、親友に対する異形の交わり――その光景に、私の思考は完全に停止してしまっていた。 元々、腰が完全に抜けてしまっていて動けない上、動く、と言う意識すら私の中に浮かばなかった。甲高い声で、無抵抗の結を襲い続ける、蛾の化け物。 その股間から、ぷしゃあ、と音を立てて、何かが結に放たれる。何かを浴びせかけているようだ。それも……服の上から。 ひくん、ひくんと、芋虫のような筋のある蛾の腹部が震え、薄明かりと鱗粉の向こうで上下に動く。 まるで何かを狙うように……その狙う方向は――間違いなく、結の体だった! 「あ……ぁぁ……」 私の体が、勝手に激しく震えている……。ゆらゆらと蠢く蛾の腹部、それが何をするかは分からない。 けど、分からないから――怖い。ただ、私の頭はガンガンと警鐘だけ鳴らしている……動けない結に、何かとんでもないことをしようとしているのではないかと――! 「――ハァアアッ!ハァアアアッ!ハァアアアアアッ!」 興奮したように叫びながら、蛾女は動きをさらに強めていく。ぷしゅっ、ぷしゅっと謎の音が何度も辺りに響いているけれど、それが何の音かは全く分からない。 けどどこか、結の輪郭がおかしくなっているような……ぼやけてきているような……! 鱗粉の隙間が照らした結の体は、何か純白の糸のようなもので覆われていた! もしかして、さっきの音は……糸の噴出の音!そんな、蛾の成体は糸を吐く力なんて無い筈なのに! そんな思いなんて知る由もなく、目の前の蛾の化け物は、腰を結に打ち付けながら、何処かから糸を放って、結の体に巻き付けていくみたい…… まるで、蚕が繭を作るように。段々と、鱗粉の隙間から見える結の体が、糸の中に見えなくなっていく……。 「――ハァアッ!ハァアアッ!ァァハァアアアアッ――!」 やがて結の姿が目視できなくなった時、待ちかねたかのように化け物の声は高まり――!? ――蛾の腹部が、結の体の中に挿し入れられた! 「――ぃ、ぃゃ、ぁ、ぁ……」 ぐぶちゅ、ぢゅぶ……。まるで空気が半端に入った風船を狭い穴の中に埋めようとするような不快な音が、シルエットの向こう側から響き渡る。 もう震える気配すらない結の体深くにまで、無理矢理押し込んでいるような、聞くに堪えない音が。 いや、とかやめて、とか、叫ぼうとした私の声は全て声帯の辺りでせき止められ、ろくな音にならなかった。叫んだら……いや、叫ばなくても、次は――私だろう。 「ぁ……ぁぁ……!」 ぐっぷちゅ、ぐっぶちゅ……挿し込まれた場所から響く音が変わる。何をされているかは……シルエットですら分からない…… いや、考える頭を私は持っていなかった。思考が、麻痺してしまっていた。恐怖に震えた私の股間の辺りが、いつの間にか暖かくなっている……。 緩んでしまったらしいが、それに恥ずかしさを感じる余裕など、私にはなかった。目の前で行われる、異形の交わりに……私の体は正常な機能を失ってしまっていた……。 「……ハゥ……フフ……クスクス……♭」 シュルシュルと糸を吐き出す音を立てながら、蛾女はゆるり、と立ち上がった。 姿を隠すように舞い散った鱗粉が、徐々に収まっていくと……そこには、地面に貼り付けられるような形で繭にされた、結の姿が見えた。 「――〜〜っっっ!!!」 間違いない!次は私の番だ!私があんな風に繭にされちゃうんだ!逃げなきゃ!逃げて……逃げて……! 思いは逸り、しかし体はその願い虚しく、殆ど動きはしなかった。逆に、その幽かな動きが、交わりを終えて静かになった路地裏に、音の波となって響き渡っていく……! 「……?……フフ……♭」 逃げられない私を笑うかのように、音に気付いた蛾女はゆっくりと、私の方に体を向けていく。きらきらと輝く鱗粉が、彼女の体の周りに霧のようなものを形成していく……! ひたり……ひたり……ゆっくりと、恐怖を煽るように、蛾女は私の方に近付いていく……! 「ひ……ぃ……嫌……厭……ぁ……」 私は少しでも遠ざかろうと腕と足だけで後ろに下がろうとして――。 ――見てしまった。 ――霧に歪んだ蛾の羽の周り。 ――さながら万華鏡のように姿を変える幾何学模様の真ん中。 ――私を、見つめている。 ――深く、深く、見つめている。 ――心の奥底まで、貫くように……双眸が。 ――私……を……。 -------------------------------------------------------------------------------- 「……ん……」 ……重い瞼を開くと、ぼやけた視界が捉えたのは、幽かに汚れた天井の壁紙と、ゆらゆら左右に揺れる、部屋の明かりのスイッチ。 半開きのカーテンが太陽の光を部屋に招いていることから、横にある時計を眺めると……午前七時に差し掛かろうとしている。いつも通りの朝だ。 休日ではないので、そのまま眠りたい心を何とか抑え、私は日に日に薄くなる布団をはねのけ、畳んで隅に寄せ、学校に行く準備を始めた。 ……何かがおかしい。何か忘れている気がする。そう、覚えていて当たり前の筈の事を……? 今、何を考えたんだろう。おかしい筈なんかない。起きたばかりなので夢か何かと混乱しているんだろう。 そう、私は鞄に教科書の類を詰め込んで、そのまま箪笥を開いて、お気に入りの服の一つを選んだ。結と一緒にショッピングに行った時の物だ。 結……あれ?何だろう。何かもやもやする……。結……結がどうした ――……ドグン ――あれ?私、何でもやもやしてたんだろう。そんな、もやもやするような事なんて、私にはないはずなのに……。 体調が悪いんだろうか。おかしいなぁ……特に気怠いとかないし。ストレスなんて、特に溜まるような出来事はないし……。 「……ま、いいか」 考えすぎていてもしょうがない。私は訳の分からない心のざわめきを気にしない事にして、早々に着替えを済まして、リビングに鞄を持って移動した。 『――次のニュースです。本日未明、数日前から行方が分からなくなっていた滝井白廉(20)が、自宅から数km離れた公園団地にて発見されました――』 何度目かと思われるこのニュースに、私は溜め息を漏らした。私の暮らす街では、近頃こうした短期間の行方不明事件が多発している所為で、報道に辟易しているのだ。 概要としてはこうだ。悩みも、年齢も、性別も関係なく、ただ唐突に、人がふらりと消えては数日後に無事発見される。盗まれた形跡も、乱暴された形跡もない。 初めのうちはただの思春期の一ページのような報道をされていたが、 それから何件も類似したような事件が発生しており、警察も何らかの関連付けを行いつつ、操作の手を進めているらしい。 学校側も、教師の見回り等で対応しているが、いくら動員人数を増やしても減らない行方不明者に、頭を悩ませている。 ……けど、不思議と、行方不明になった人に対する動機解明とか、聞かないんだよね……。 「璃由、お醤油とって」 「はい、母さん」 目玉焼きに醤油派の母さんと私。それは譲れない。父さんは塩だけだけど……ね。醤油、美味しいのに。 「しっかしね〜、何で行方不明になんかなるのかしら」 全くだ……ん? 「本当にねぇ……」 ……何だろう。頭の中で何かちりちりと音を立てている。何でだろう……? 「……どうしたの?璃由?」 「……え?あ、何でもないよ。ただぼぉっとしてただけ」 「……なら、いいんだけどねぇ……」 母さんに呼ばれて、私は今の妙な感じを頭から振り払った。考えていてもしょうがない。どうせ考えたところで、分かる筈ないんだから。何かあるはずが、ないんだから。 『甲斐』と書かれた表札の家を飛び出し、遅刻しないように気持ち小走りで学校に向かう。 夜には『事件』の所為で見回りの大人しか見あたらなくなったとはいえ、昼間はそれとは関係なく、緑のおばさんやいろんな年の子供達が笑顔で思い思いの事を行っている。 平和な街の一風景だ。そんな妙な事を考えていると、後ろからとたとたと駆け足で何かが近付いてくる。 何だろう、と振り返った私は――! 「――りぃぃぃぃぃゆぅぅぅぅぅっちぃぃぃぃぃぃ♪♪♪」 「――ゆぃんんむんっ!」 ――問答無用の結によるダイビングキッスをまともに受けることになった!ちょっと待って、いくらなんでも唐突すぎるでしょ! そりゃあそんな気配があったことは今までも否定しないよ!何気なく腕を絡ませたりとか、弁当食べさせ合ったりとか、マウストゥマウスじゃないキスはやった事はあるわよ! けど、これはお互いやった事が……!? ……あれ、何だろう……。今、何かが頭に浮かんだような……。よく見えなかったけど、結が、誰か、いや、何か、と……? 「――りゆっちー♪おはよう!」 「……え、ええ……結、おはよう……」 結の声で我に返る私を抱え起こしつつ、結は喜び一杯と言った風情でハグをしてきた。……流石に今回は避けた……じゃなくて! 「……って、何でいきなり路チューなんてしてきたのよ!びっくりしたじゃないの!」 「りゆっちの可愛さのあまり、ついやってしまいました」 ……そんな邪気のない声で言わないでよ。脱力するじゃない……はぁ。 「……ありえん」 しかも理由として不適切不適当も良いところだし……。 「えへへぇ……メンゴメンゴ」 「全く……」 いつものようにおどけて両手を合わせる結に、私は苦笑いを浮かべることしかできなかった。昔から結はこんな感じなのだ。 思い付いたことを唐突に、しかも突拍子もなく実行する、所謂不思議系の女の子。それが彼女なのだ。 「ところでさ〜?」 「何?」 話題の変更も突拍子もなく行われる。それもいつもの事なので、私は最早気にしないことにしている。どうせとりとめもない話題だし。 はたして手芸を始めたんだという、結の趣味の話であった。何故この暑くなる時期に手芸なんか始めるのか気になるけど……。 身振り手振り交えたやや躁気味な結の話を、私は苦笑いを浮かべつつ聞きながら、学校へと足を進めていったのだった……。 -------------------------------------------------------------------------------- 冬の受験に向け兎に角駆け足の三年生とは対照的に、二年生はお気楽に学生生活を続けていける。 ただ来年にはそうも言ってられないんだろうなぁ、とやや暗澹たる気持ちが沸き起こったりもする、そんな微妙な時期だったりする。 モラトリアムのモラトリアム、そんな微妙にも程がある時期を過ごす私達が、それを充実させる手段、或いは一時の現実逃避の手段として多趣味になるのは仕方ないと思う。 かく言う私も……ギターをやったりしているし。左を見れば密かな交換日記ならぬ交換ポエム、右を見れば禁止されている携帯ゲーム。授業ちゃんと受けろと言いたい。 因みに私の後ろでは、結がバッグから糸を出して何かを結っている。教師が咎める気がないのが全く不思議だ。あんな露骨に集中力を使う趣味を授業中にやらすのはなぁ……。 お陰で中間及び期末テストで私のノートがやけに出回るわけになるわけで……はぁ。いっそのこと私もタブ譜でも授業中に書けばいいんだろうか。でも私も自爆するか。 何この妙なジレンマ。――とまぁこんな感じで、退屈極まる授業は過ぎていく。教師がやる気ないんだもんなぁ……。そのくせ寝たときだけ怒るし……。 -------------------------------------------------------------------------------- 男子学生に関する下世話なゴシップを聞き流しつつ、私は箸を進める。場所は教室。私はクラスでそれなりに仲のいい友人と弁当を口にしていた。 いつもは一緒にいるはずの結は、手芸クラブの子に入部できるか尋ねに行ったみたい。 それを目の前で私の弁当を狙う、小柄な友人――笹目美菜子(ささめみなこ)から耳にしている。 「結ちゃんあまりにも唐突なのね〜」 そう彼女が漏らすのも分かる。いつからはまったのかは分からないけど、そのまま即刻部活に行くだろうか。 「まぁあの子、はまりやすいしね」 こちらはややぽっちゃり系の友人――柚木冬美(ゆきふゆみ)の言。この二人は色々な意味で一緒にいることが多く、『ササメユキの二人』とか呼ばれている。 まぁそれは兎も角、結がはまりやすく飽きっぽいのは確かだ。それを分かっているから、熱が醒めないうちに行動しているのかもしれない……多分。 けど、何となく腑に落ちない。何か分からないけど、今回の結は何処か違う気がするのだ。どうしようもなく、心がざわめく。 さっきから箸が当たらない所為か……と思ったら、いつの間にか弁当の中身がかなりごっそり減っていた。 そして目の前の美菜子が満腹そうに腹をさする様から……またか! 「美ィ菜ァ子ォッ!アンタ毎回私の弁当盗るの止めなさいよ!」 「璃由は私に飢え死にしろっていうのね〜、酷いのね〜」 「んな大層な規模の事じゃないでしょ!マイプレシャスイーティングタイムよカムバック!それ以前にアンタは何で毎回弁当を忘れてんのよ!」 「あれは弁当じゃないのね〜!自決用最終兵器なのね〜!」 「ただ単に野菜中心の弁当ってだけでしょうがぁぁっ!」 こんな、いつも通りの私達の言い合いを眺めつつ、冬美は 「……まぁ、美菜子のアレはなぁ……」 と溜め息を漏らすのであった。おいおい冬美、アンタが同意するなんてどんな兵器よ。兎も角、一人居なくても、私達は私達だった。 そんな日常を過ごす中で、浮かんでいだ違和感は、解けて消えていった……。 -------------------------------------------------------------------------------- 「おっけーだったよぉっりゆっちぃぃぃぃぃっ♪」 「甘い!二度も同じ手は食わないわっ!」 五限目終了後、結果報告ついでに飛びついてくる結を私は回避しつつ、転ばさないように腕を引く。不意打ちでなければこれくらい出来るのだ。 流石に授業中うずうずしっぱなしなのが分かるからなぁ……。なんかこう……スキンシップが派手だなぁ。いつもに比べて、遙かに、接触が。 まぁ『ササメユキ』の二人がそれなりに凄いとはいえ……ね。 「ふにゅー、いいじゃんハグするくらいさぁ〜」 「人目を考えなさい人目を」 こめかみが今非常に痛いのは、絶対病気の所為なんかじゃないだろう。私は心も体も健康だ。授業終了後のインターバルでリリータイムを演じる気が知れない。 でも理由追及したとして結はのらりくらりとかわすのだろう。掴み所が細糸なみに無い。でも聞かずにはいられない。 「って言うより何でこんな五時限目と六時限目なんて言う半端なタイミングで、私に対して飛びかかるかな?」 その問いにこの子は……あっさり言いましたよ。ええ。 「だって六限目終わったらすぐにね、まおりんに部活のインスティトゥーションをしてもらうんだ〜♪」 それを言うならイントロダクションだろうに。そんな突っ込みは野暮か。こめかみの痛みに耐えることに体力を使った方が有意義だろう。 「全く……だから、今日は一緒の帰宅が無理だからハグろうと?」 満面の笑みの結に、私はただ溜め息を漏らすだけだった……。 そして六限目の授業も終わり、私は美菜子と冬美の二人と共に帰宅した。 弁当の感想を嬉々として告げる美菜子に私は恨めしそうな視線を投げかけたり、冬美がそんな私を宥めつつバッグの中のドロップを渡したり、 それに私がさらに怒ったりと、まぁいつも通りの帰り道だった。でも、どこか寂しいのは……腕を絡ませてくる結が居ないからか。 近くにいるときは鬱陶しく感じたりもするけれど、いざ隣にいないと寂しく感じる。現金なもんだ。 ――しかし、本当に唐突だなぁ……結。 -------------------------------------------------------------------------------- ――ふふ……ふふふぅっ♪ ――ひぃいっ!い、いや、いやぁぁぁっ! ――しゅるるるるるっ! ――ひゃっ!?!? ――つーかま〜えたっ♪ ――い、いいい嫌ぁぁぁぁぁっ!誰かぁ!だれかぁぁんむんんっ! ――しゅるしゅるしゅるる〜〜〜っ♪ ――あーみーもーのーしーまーしょ♪ ――んんんんんっ!んんんっ!んっんんんん〜っ! ――しゅるるるる……ふしゅっ♪ ――ふふふふふ〜……じゃあ……♪ ――イ・タ・ダ・キ・マス♪ -------------------------------------------------------------------------------- 警察は捜査を色々と続けているらしく、塾帰りの時間、大通りのあちこちにその姿が見えた。お勤めご苦労様です。 教材入りの鞄を手に持ちながら、私はただひたすらに家路を目指していた。いつものように大通りを抜け、コンビニでクーラーの快適さを体感しながら、近道を通ろうとする。 いつものように……いつもの……あれ?……何かが引っかかる……。 いつも、いつも通っているはず……だよね……あれれ?何だろう……この裏通りを見ていると……何故か心がざわつく……昨日も、ここを通って……。 ――どくん。 「……?」 ……あれ?今、私何考えてたんだろう。何か、凄いもやもやした感覚だけが私の中にあって……。 ……何も考えないで、通った方が良さそうだ……そう私は考えて、足早に走って通り抜けることにした。 ……心に、何処かしっくりこない感情を抱えたまま。 -------------------------------------------------------------------------------- ――ふふ……♪さぁ……糸を出して……♪ ――しゅるしゅるしゅるるぅぅぅ〜〜…… ――はい、よく出来ましたぁ……ありがとうね〜♪ ――……ハァァ……サマ……♪ ――さぁ……じゃあ、みんなで始めよっか〜♪ ――……ハイィ……♪ ――……せ〜の♪ 『あ〜み〜も〜の〜し〜ま〜しょ♪』 -------------------------------------------------------------------------------- 『……依然、犯人の目的は不明、とのことです。では、次はスポーツです。今年も開かれました、全日本男子カバディ……』 この日も、一人失踪者が増え、以前の行方不明者が一人戻ってきたらしい。怖い時代になった、と母さんは漏らしていたけど……何だろう。 やっぱり何処かもやもやする。何かを忘れているような、何かを思い出せないような……そんな微妙な感情。 朝食のエッグトーストが味気ないのもその所為だろうか、と思ったけど、それは明らかに醤油を掛けていないからか。 バターに卵に醤油……塩分過多な気がするけど、まぁ野菜でカバーしているし……問題はないと思う……多分。 「璃由、そろそろ時間危ないんじゃない?」 そう母さんに言われて確認をすると、確かに危ない。昨日のようなことをまたされたら、流石に一限に間に合わない。なので、 「――わぁっ!行ってきまぁぁぁすっ!」 パンを口の中に突っ込んで水で流し込み、そのままドアを開き家から飛び出た私だった。後は結の迎撃に意識を集中させながら進む! 進む。 進む……。 ……あれ? -------------------------------------------------------------------------------- 「璃由ちゃんおはよーなのね〜ってあれ?今日は結ちゃんと一緒じゃないのね〜?」 「おはよう。何か会わなかった」 そう。家から学校までの通学路で、全く結に会わなかったのだ。何故に。性格的に私と一緒に時間ぎりぎりに滑り込みカカッとセーフを狙うはずなのに、その時間帯にあの通学路にいないって何が起こったんだ本当に。 「おかしいのね〜璃由。結ちゃんが現れないなんて……」 美菜子が言うとおり、毎日のように顔を合わせているはずの結がこの時刻に現れないという事が……。 「趣味にはまって……なんて無かったからねぇ」 冬美も漏らす通り、流石にその辺りの区分は出来ている筈。ネットゲームに夢中になって昼夜を忘れるようなタイプじゃないから……あれ? 「……バッグ……掛かってる?」 「……本当なのね〜」 「本当だ。と言うことは早々に来たって事……少なくとも私達より……有り得ん」 割と小振りな、しかし明らかに一部が毛玉の形に膨らんだバッグが、結の机の横に掛かっていた。丁度座席と机で見えなかったわけだけど……。 私達三人は、授業開始前に教室に滑り込んできた結が、私にダイビングキッスをかましてくるまでずっと黙っていた。三人の心は、この時一致していた。 「(天変地異!天変地異の前触れよ(なのね〜)!)」 -------------------------------------------------------------------------------- 早起きの切っ掛けを、昼食中に打ち明けられた私は、何というか呆気に取られるしかなかった。 「……ミサンガ?こら、美菜子。だから私の弁当奪わないでって」 「そうだよりゆっち〜♪企画立案私で言ってみたら通りました!」 美菜子の弁当強奪箸を片手で防ぎつつ、私は結の話すままに耳を傾ける。冬美は早々に食べ終えて、今は私の配布用ノートを写している。 あぁ、確かに中間テストが近いか。だから早めに聞きそびれたりしたところを記しているわけで……。ハレーションがぶっ飛びそうになっている結の話はこうだ。 運動部の大会が近づく昨今、頑張って欲しいとの願いを込めたり、部員の気持ちを一つにするために、運動部の人達に向けてミサンガを配布するつもりだという。 そのために、様々な運動部のマネージャーの女の子に声を掛けていた、と言う話。途中によく訳の分からない喩えやテンションの絶頂があったりと、やっぱりよく分からなくなっている。 前からおかしかったところはあったとはいえ、ここまで急変するものとは……何か切っ掛けがあったんだろうか。 こんな、私ラビューンになるような、激しい、切っ掛け……?……やっぱり、何かが引っかかる。この頃ずっとだ。 何か、そう何か大事なことを忘れているような……どうしてもそれを思い出さなければいけないような……。 ……ど く ん 「……りゆっち?りゆっちどうしたの?」 「……あ、え……あ?私、ぼぉっとしてた?」 結の声で私は我に返る。最近こんな事ばかりだ。栄養が足りていないのかもしれない。 そうマイ箸を弁当箱に突き立てると、返ってくるのはプラスチック同士が当たる音……! 「――美ィィ菜ァァ子ォォォォッ!」 「ひゃっ!り、璃由!かっ神は何度も言っているのね〜!ここで争うべきではないと言っているのね〜!」 「五月蠅いっ!美菜子!今日という今日は許さないからね!そこに直りなさい!」 「璃由ちゃんキャラ変わってるのね〜キャラ崩壊なのね〜!」 あぁ……今日も、放課後にパンを追加購入する羽目になるのか……大概にしてよね美菜子……今度はアンタの弁当を奪うわ……! 「……あ、有り難う。序でにちょっと付け加えておいたからね」 で、忘れた頃に冬美がノート返却。礼もそこそこに、私は美菜子と休み時間中掛けて口論を行ったのだった……。 -------------------------------------------------------------------------------- あぁ、今日も説教駄目だったわ……美菜子はこの件に関する話を聞かないからねぇ……。 空腹のあまり待ち遠しかった放課後がようやく訪れ、私は『ササメユキ』の二人に別れを告げて早々に帰路に就いた。 結?今日早速マネージャーの人達にこの企画を話しに行くみたい。簡単な企画説明をした後に、後日別の場所で会合を開くみたいだ。 メールで話をすればいいんじゃない?と思ったんだけど、結は 「会って話がしたいからー!」 と可愛げに言っていたからね……何が彼女にあそこまでさせるんだろう。 「……」 まぁ、今はいいか。それよりも……今はカツサンドを頂こう。全く、何でコンビニのサンドはあんなに高いのかなぁ……はぁ。小遣いがマッハ……。 -------------------------------------------------------------------------------- ――アハァ……フフ♪ ――ひっ!ま、まお……り……!? ――アぁミぃモぉノぉシぃマぁ〜ショ♪ ――い、いいいいいい嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ――フフフ……フシュルフシュル〜……♪ ――なっ何で!?何で開かないのぉっ!?さっきまで――ッ!? ――しゅるしゅるしゅるるるぅぅぅ〜〜〜〜………… ――ひっ!な、何コレ――っ!?う、動けな――ひぃぃぃっ! ――クスクス……クスクス……♪♪ ――やだぁやだぁやだぁぁっ!誰かぁぁぁぁっ!誰か助けてぇぇぇぇっ! ――クスクス……フタリキリ……ダレモコナイ……♪ ――しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる………… ――やだぁぁぁぁぁっ!誰かぁぁぁっ!誰か――ングぅゥっ! ――しゅるしゅる……しゅるるしゅるるる………… ――!!!、!!、!!!、!!!! ――フフフ……コレデ……コレデェ……♪ ――お疲れ様ぁ♪ ――♪♪……サマァ……♪♪ ――ふふふ……慌てなくてもいいよぉ〜♪ゆっくり……ふたりでぇ……いただきます、しようね♪ ――♪♪♪♪ハィッ♪♪♪♪ ――くすくす……他の娘達も上手くいっているみたいだし……んぁぁ……♪ ――イ・タ・ダ・キ・マス♪ ――じゅるるっ!じゅっ!しゅるっ!じゅくん!じゅくんっ! ――……慌てちゃ駄目……慌てちゃ駄目なんだぁ……♪ ――でも……でもぉ……でもぉ……っ♪ ――……待ちきれない……待ちきれないよぉ……♪♪ ――じゅぐっ!ぢゅるるっ!ぢゅるるるるるるるるるるっ! ――んあぁ……んぁあああああああああああっ♪♪♪♪ ――……どぉぐぅぅぅん……どぉぐぅぅぅぅん……どぉぐぅぅぅぅぅん…… -------------------------------------------------------------------------------- 「……んぁ……駄目だ、暑苦しすぎる……」 流石にこのクーラー効かせ始めの半端な時期に手芸なんて趣味のコーナーに立ち寄ることがまず無茶よ……見るだけで暑くなる……暑くなるのは大白真理の歌だけで十分なのに……。 結がそこまではまったという手芸。何処にその源泉があるのかなんて堅苦しいけどさ、何処にはまったのかくらい知りたいと思って本屋に立ち寄ってみたわけだけど……駄目だ、私には縁遠すぎる。 全く興味が湧く気配がない。 「……はぁ」 季節がまず過ぎんのよとか、指先が他の人より不器用ですからとか、そんな言い訳を半ダースほど浮かべつつ、私は本を閉じようとして、白い、毛糸玉が、地面に無造作に置かれている写真が目に入った――!? 【見覚えのある路地裏】 【白い糸の塊】 【突き出た人の腕】 【飛び散る粉】 【蛾のような腹部】 【歪んだ笑顔】 【そして、瞳――!】 「――〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!」 ――今、私、何を見ていた……!?何か……何か異様な光景が頭の中に浮かんで……っ!と、兎に角落ち着くのよ璃由ッ! 深呼吸深呼吸……すーはー。全く!こんな所で挙動不審になったら怪しすぎるじゃない!えぇと……取り敢えず何でそれが起こったかを理解しないと……えっと……確か雑誌に載っていた写真を見ていて――。 ――ど っ ぐ っ 「――っ!?」 あ、あれ……。な、何を見たんだったっけ……。もやもやする……まるで、記憶にフィルターが掛けられているみたい……。 ――と っ ……何、考えてたんだっけ……。また、どうでもいいことを考えてたのかな……。……最近、気が付いたらぼぉっとしている気がする……。 疲れてるのかな……。……帰って、眠ろう。そう私は、雑誌を丁寧に戻したのだった……。 -------------------------------------------------------------------------------- その日、いつも通り二人しか知らない秘密の場所で『逢瀬』を交わしていた『ササメユキ』の二人が、後始末を終えて終えた後、普通に家路につこうとしていた。 「うー……太陽が黄色に見えるくらいやりたかったのね〜」 「……それ……物理的に出来るの?」 「百万枚刷りのフィルムの超大作くらいずっとやっていたいのね〜」 「気持ちは分かるけどさ……」 そんな取り留めもないあしらいを行っていた彼女達は、ふと、何の気なしに空を見上げ、 「……あり?」 「……どうしたの?」 突然、美菜子が何か素頓狂な声をあげたことから、冬美は彼女に不思議そうに問いかけた。美菜子は冬美の声が聞こえているのか、目をくしくしと擦った後、目薬を取り出して挿した上で、再び空を見上げ……。 「……んゆ?ん……」 何か悩み始めた。冬美は再び質問しようと口を開こうとした……が、恐らく質問したとして聞こえていない可能性が高いと判断し、彼女が考え終えるのを待つことにした。 その間にも、美菜子は冬美の横で見事な百面相を披露している。思いついた顔、それが間違いだと気付く顔、考え直す顔、腑に落ちない顔……やがて、瞳を一度閉じて、開いた。 「……冬ちんごめんなのね〜。何か空がほわほわしている感じがして、ちょっと考えちゃったのね〜」 「……空が、ほわほわ?」 まるでマリオRPGの『空見れどれどれ』みたいな抽象的かつ掴み所がない言葉だなぁ、と冬美は思いながら、再び空を見てみる。 「……」 冬美の瞳には、普段通りの空が映っている。何の変哲もない、いつもの夕焼け空だ。 「……気のせいじゃない?」 「そう思ったから、目を綺麗にしてまた見てみたのね〜」 で、考え込んだ結果、気のせいだったという結果に達したと、美菜子は言う。それを受けて冬美は、『逢瀬』で疲れているのかもしれないなと考え、彼女を気遣い、家路までの速度をほんのり緩めることにした。 その気遣いに甘えるように、美菜子は冬美に腕を絡ませ、体を寄せ合うのだった。……どこか、心がざわめく感じを覚えながら。 -------------------------------------------------------------------------------- ――しゅるしゅるしゅる〜〜〜〜…… ――しゅく、しゅく、しゅく…… ――ンハァァッ♪ハァアアァッ♪ンァアアァアアァ♪ ――アァンッ♪アンッアンッアァアアアアンッ♪ ――ヒ、ヒュ、ヒュアアアアアアアッ♪アァアッァアアァッアアッ♪ ――ヒュッ♪ファアアアッ♪デチャウウッ♪デチャウウウウッ……ゥアアアアアアアアアアッ♪ ――しゅるるるるるるるるるるるるぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ♪♪♪ ――しゅり、しゅり、しゅり…… ――んぁぁっ……あんんっ……んんんっっ……♪ ――……ふふ……♪だぁんだん、魔力が溜まってきて……あはぁぁっ……♪ ――……ふふ……ふふふ……♪ ――……もうすぐ……もうすぐだよぉ……♪あとちょっとで……ふふ……ふふふふふ……♪ ――……待っててね……りゆっち……♪ -------------------------------------------------------------------------------- 「――はぁっ……はぁっ……はぁっ……」 ――暗い夜道、私は何かから逃れるように走っていた。流行る心に促されるように兎に角脚を速く速く速く動かしていく。 「……はぁっ……はぁぁっ……はぁぁぁっ……」 私の周囲に流れる風景は、いつも通りの街の風景――ではなかった。 街灯にも、塀にも、シャッターにも、ドアにも、窓の外側も内側もどこもかしこも真っ白な糸が掛かっていた。 それも――蜘蛛の巣のような捕らえるものと言うよりは、何というか、外側から身を守り、自身の姿を隠すような、厚くしなやかな糸が、あちらこちらに絡み付いていたのだ。 「……はぁ……っ……はぁあ……っ……」 しゅるしゅる、しゅくしゅくと、その建物の中からは謎の音が聞こえてくる。時折混ざるように、誰かの悲鳴が悪夢のように私の耳に届いてくる。 そして、糸が掛かっていない窓から……こちらに向けて視線を投げかけているようで――! 「……はぁっ……はぁ……っ!ひぃっ!」 まただ。ある程度まで走ったところで、大通りが無数の巨大な繭のような物に塞がれて、通れなくなっているのだ。私はそれを気持ち悪いと思う以前に、ただ単純に怖いと思っていた。 「……ひぁっ!はぁあっ!……はぁっ!……」 気が狂いそうな程繰り返した逃避行動。その末に見つけたのは……裏通り。兎に角逃げなきゃと脚を進ませた、そこには――! 【白い糸の塊】 【突き出た人の腕】 【飛び散る粉】 【蛾のような腹部】 【歪んだ笑顔】 【そして――!】 ――厭ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ! 「――ッッ!?」 ……っはぁ……っぁ……っぁ……。な、何だったんだろう今の悪夢は……。訳が分からない……。何があったの……!?全身を汗で濡らしつつ目が覚めた時刻は午前六時。 月日は百代の過客じゃなかった6/12。奥の細道じゃないんだから、ほら落ち着いて。すーはー。……よし、落ち着いたところで……。 ――ど く ん ど く ん ……学校に行く準備をするか……。悪夢なんて思い出してどうするのよ……わざわざ気分悪くなろうとすること無いって……。忘れよう……。 「あら?テレビの映りが何か悪いわねぇ……」 母さんが、味噌汁に鯖の味噌煮という純和食の料理を箸で摘みつつ、テレビのリモコンをポチポチいじっている。 確かに、いつもはくっきり映る映像が、今日は何処かゴースト気味だ。音声もそれに合わせてやや薄く乱れている。 「……古くなったわけじゃないのよね?それ……」 我が家の中でも割と古いはずの家電だ。急に老化してもおかしくはない。まぁここまで豹変するのは確かにどうかなぁ……という気はするけど。 「古くはないわよぉ。本当に古いときは、叩いても映像が歪む時なんだから」 「それはもう壊れてるって見なすべきじゃない?」 分かってないわねぇ、と持論展開する母さんを意識の外に置きつつ、私は食事を進める。純和の食事は、カロリーが少なくてぷっくりお腹対策には最良だ。 冬美もカロリー豊かなご飯ばかりじゃなくてこういうのにすればいいのに……と思わずにはいられない。 まぁあの体格で『デンジャラスバディなのね〜♪』と好いてくる存在が居るからいいのか。 「……あれ?」 そう言えば……和食にしては、妙に野菜が少ないな……。そう思った頃に、テレビについて語り終えたばかりの母さんが、思い出したように言った。 「そう言えばね、最近どこのスーパーでも、野菜の売れ行きが好調みたいで、不作でもないのに野菜棚が空っぽになっちゃってるのよ。不思議よねぇ……お母さん買いそびれちゃって、今朝の野菜はこれだけなのよ」 「……通りで少ないと思ったら……それ本当?」 「本当よぉ!隣町のコス〇コでも売り切れちゃったて話」 ……信じられない。あの大量卸売りで、しかも真っ先に残るだろう野菜で売り切れだなんて都市伝説か? 虫じゃあるまいし、一体何が……?……虫?あれ……? ――ど く っ ……みんなきっとベジタリアンに覚醒したんだろう。それにしては減りが異常だけど、それ以外に考えにくいし……。誰かが買い占めているわけでもなさそうだし……目的も不明だし……。 ……気にしててもしょうがない。そう結論づけた私は、そのまま食事を終えた皿を流しにつっこんで、そろそろ見えなくなりそうな晴れ空の下へと躍り出たのだった……。 「……あれ……?」 晴れ空、確かに晴れ空の筈だった。天気予報の自信満々の解説は間違いなく快晴。けど……私の頭上に広がる、白い物は何? 「……雲?」 それなりに厚そうに見える雲が、私の頭上に重たくのし掛かっている。日の光はその雲の筋の隙間から時折漏れてこそ居るけど、ただそれだけだ。大半は天を覆う純白の物体に遮られてしまっている。 試しに携帯を開いて天気予報を確認してみる。やっぱり晴れ。このあたりは別に繁華街がある街から離れているわけじゃないんだけど……。 「……」 降るかは分からないけど、傘は持って行った方がいいかもしれない。私は一度家に戻り、折りたたみ傘を手にとって学校へと足早に向かったのだった……。結は、今日も先に行くって連絡があったから心配なし。 ……心配……なし……なのかな?……何かが凄い引っかかるけど。 ……それにしても……この通り、こんなに人通り少なかったかなぁ……。 -------------------------------------------------------------------------------- 「あれ?自習?」 一時限目、余裕の時刻で教室に入った私を待ち受けていたのは、黒板に白いチョークで大きく記された、一部生徒には神々しく見えるであろう二文字だった。 「ん?そうみたいなのね〜」 そう、みたい……割とゴシッパーな気がある美菜子が知らないってどういう事だろうか。誰からも聞いてないのかな……そう、周りを見回すと……あれ? 「……ミサンガ?」 みんな腕に腕にミサンガを付けている。あれ?結は運動部に配るとか言っていたけど、あれ?あの子は吹奏楽で、あいつは鉄研よね? 「何か、みんなで運動部を応援しよう、って、手芸部が活動的に動いているみたい。主導は勿論、結ね」 「……入ったばかりで、よく採用されたわね……」 それとも、そんなに敷居が高くないのかしら。どちらにしても、私としては……ただ、あまりの行動力に感心するやら呆れるやら。 「そう言えば……結は?」 先程から、と言うより学校に着いてから、結の姿が全く見えない。流石に一度は教室に戻ってきてもいい筈なんだけど。私のその質問に、二人は首を横に振る。 どうやら、二人とも知らないらしい。……何か、ちょっと寂しい気分になった。ここ数日で、彼女が何で遠くなった気がする。夢中になることを見つけたなら応援するのが、曲がりなりにも親友としてやるべき事なのかもしれないけど……。 ……でも、どうしてもざわつく。何かが違うような気がするんだ。結が、夢中になっている、その夢中の質が、何か……。 「……りぃぃぃぃぃぃゆっっっっっっちぃぃぃぃぃぃぃ♪♪♪♪」 「……!?ぶべらぁっ!」 って何普通にダイビングかましてくるのよこの娘は!?つか寧ろいつの間に来た!? 「lぽかーんなのね……」 「ああ……人間業か……?」 あぁもぅ二人とも唖然としてるし……って!? 「あぁもう璃由っち好き好き大好き寵愛してるぅっラヴィンユーサンキューゴッ寧ろゴッデス♪」 「きゃあうっ!ちょ、ちょっと結、結っ苦しい苦しいってば離して離しなさい離しなさいってばよ!」 当人比三十割増くらいの勢いで私の首に抱きついて頬擦りを行う結を、私は何とか離そうと腕に手をかけて外そうとする……けど、いつもより理性が振り切れているのか、結の力は弛む気配がない! 「んふふ〜璃由っち〜璃由っちぃぃぃ……んむ♪」 そのまま強制的に顔は彼女の方に向けられ、唇が私のそれに押し付けられ……って! 「んんんっっ!んんっ!んっんんんっ!」 何で唇から舌を突き入れようとするのよ!私はそんな気はないってのに!歯のバリケードで舌の進入を防ぎつつ、私はギャラリーと化している二人に救難の目線を送った。 唖然としていた二人は、その視線によって硬直状態から回復し、直ぐ様結を引き矧がしにかかった。 「気持ちは分かるけどお覚悟なのね〜!」 「不純同性交流はここでやるな!」 ……あのね、二人とも……。気持ちは分かるってどういう事よ……しかもここでやるなって……つまり余所でやって下さい、と。そんなカミングアウト要らないから! と言うか二人とも私をどんな目線で見てたのよ!普通に友達付き合いできなくなるじゃない! 「――きゃううっ♪」 ……まぁ、そんな二人のおかげで、結は引き矧がされたわけだけど――反省の色がねぇ。 「――全く、本当に、性懲りもなく、いきなり何するのよ結っ!」 私の怒りの凄みに、結は相変わらずの天衣無縫な笑みを浮かべつつ、若干頬を赤らめてしゃあしゃあと告げた。 「璃由っちが可愛いから、ついやっちゃうんda☆」 「そんな理由で私に飛びかかって唇を奪うなぁぁぁぁっ!」 衆目の場で押し倒されてネコと化すおまけまで付いたわよ!あぁ……私は至ってノーマルなのにぃ……。 「りゆっち……唇も柔らかくて素敵だよ……♪」 「そっ、そんな告白要らないわよっ!」 だから衆目の場で、そんなフェティシズムを明らかにするな!いや、これは明らかな偏愛か!?どんだけ私好きなのよこの娘!? 「まるで淡い雪のように、触れたら私の体の形に合わせて崩れ溶けてしまいそうな程柔らかくて、それでいて春先の日溜まりのような暖かさをんむっ!」 「だ〜か〜ら〜周りが聴いているから解説も止めてぇぇぇぇっ!」 あまりにも恥ずかしくなったんで結の口を塞ぐ私。幽かに視界が歪んでいるのは間違いなく羞恥の涙の所為だ。と言うか何なんだろうこの遣り取り。恥ずかしいにも程がある。そもそも私は何を訊かなければならない……すーはー。 「……で、今までどこ行っていたの?一限の前からずっと教室にいなかった理由が気になるんだけどさ……」 ……なんか頬赤らめているのが気になる……。口から手を離したら大変なことになりそうだけど、離さないと聞けないし……仕方ない。離すか。 「璃由っちぃ……そんなに私のことを心配して……♪」 「だぁーかぁーらぁー!」 何この子の頭オールプラス思考変換機能でも常備されてるの!?何か悲しくなってくるんだけど!?そんな私の悲しみを余所に、結はハートを散りばめたかのようなピンクオーラ全開で、体をくねらせつつやってたことを説明していく。 「えへへぇ……♪手芸部の活動をやっていたの♪みんなにあげる応援のミサンガをね、手芸部とマネジャーさん達みんなで織ってたのだ〜♪はい、璃由っちには私の愛を込めた糸多めのミサンガをあげるっ♪」 そう、結がバッグの中から取りだしたのは、他のミサンガより明らかに太めのミサンガだった。太い分が、彼女が込めた愛なのかもしれない。 でも正直重い気がする。愛と言うより劣情が込められていると思うんだけどねぇ……。 ……正直心情的には突き返したい部分もある。ある……けど……。 「♪♪♪」 あまりにも期待にキラキラした彼女の目を見ると……甘いとか思いながらも……何か心がざわざわするけど……逆らっちゃいけない気がして……。 「……ありがとうね――っと!」 ありがとうの言葉と同時に襲いかかる結を回避しつつ私は関節を極める。流石に何度も引っかかってたまるもんですか! そのままミサンガを填めたところで、ようやくチャイムが鳴り、二時限目の授業が始まった。教師は……来た。また自習なんて事にはならなかったようだ。 ざわつく気持ちは、いつの間にか収まっていた。 -------------------------------------------------------------------------------- あっと言う間に、昼ご飯の時間。結は例によって手芸部の活動。そんなにアグレッシブだっただろうか、その部活。 ……まぁ気にしてもしょうがないけど。私達はいつも通りの母親特製の弁当を取りだし……て……? 「……え……?」 いや、ちょっと待って。私の弁当は普通だけど、美菜子……。 「……美菜子」 「……何なのね〜?」 ……言ってしまえば、料理を徹底的に冒涜したモノだった。謎の怨磋が箱を開けた瞬間響くのって何なのよ。寧ろ何処をどうしたらそんな中国の川のような色鮮やかな色の野菜炒めが出来る! 「……美菜子のお母さんね、料理が下手なのよ。他の家事は相当上手いのに、料理だけは壊滅的で……ね……」 「冬ちんも何回も犠牲になったのね〜……」 何その梅サンドの作り手……。そりゃ美菜子も私の食事を漁りに来るわけだ……って。 「自分では作らないの?」 「普段は父さんが作ってたのね〜……」 そう言えば長期出張中だっけ、美菜子のお父さん……。そりゃ急に作れるはずもないか……。で、晩飯は冬美の家で毎日ご馳走になっている、と。 だからこそこれ以上頼ることは出来ず……。 「……美菜子」 「……何なのね〜?」 「……お母さんに、出張が終わるまで美菜子の分の弁当も作るようお願いしておくわね」 「!昼メシアは此処にいたのね〜!」 「ってその呼び方は止めてよ美菜子!」 何その有り難くない呼び名!昼飯救世主なんて字面からして格好悪いじゃないの! 「フフ……昼メシアか……♪」 あぁなにか面白そうと言うか愉快そうな笑い声が冬美様の口から……。 -------------------------------------------------------------------------------- ――フフフ……センセェ……♪ ――ひぃっ!な、何なの貴女達!? ――センセェ……♪センセェ……♪ ――い、いぃ嫌ぁっ!田辺先生!牧島先せ……キャアアアアッ! ――フフフ……センセェ……センセェ……♪ ――ゆ……夢よ……そう、これは夢、惡い、悪い夢…… ――フフフ……フシュウウウ……♪ ――しゅるるるるるるるるるるるるるるるるぅぅぅ〜〜っっ♪♪ ――ゆめ……ゆめなのよ……あは……あはは……あはははは…… ――しゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるぅぅ〜〜っっ……♪♪♪ ――ア〜ミ〜モ〜ノ〜シ〜マ〜ショ♪ ――あはは……はは……ははは…… ――しゅるるるるるるるるぅぅ…………ふしゅっ、しゅっ……しゅく、しゅく……♪ ――フフフ……センセェ……コレデェ……♪ ――じゅるるっ!じゅっ!しゅるっ!じゅくん!じゅくんっ! ――アア……アハァ……アァアアァ……♪ ――じゅるるっ!じゅっ!しゅるっ!じゅくん!ずぢゅるるるるるるるるるるるるるるるぅぅぅぅぅぅ〜〜っっ!! ――アハァ……アァァ……ァアアァァァァ……♪ ――オ・イ・シ♪ ――……ふふ……♪ ――……うふふ……♪ ――……うふふふふふふふふふふふふふふ……っ♪ ――……やっと……やっとだよ……♪ ――やっと……うふ、うふふ、うふふふふふふふふふふ……♪ ――……りゆっちぃ……♪ ――……待っててね♪直ぐに……迎えに行くから♪ -------------------------------------------------------------------------------- -------------------------------------------------------------------------------- ――瞳を開けた私が、何気なく時計を見たとき、短針は三と四の中間を指していた。 「――……ぁ、ぁれ?」 五時限目、いつの間に終わったの?寧ろ……あれ?いつ始まったんだっけ……?寧ろ六限目は何処に……? 確か……チャイムが鳴って席について、クラスの生徒が空気転換に窓を開けて……って、それよりも大切なことがある。 「……一人……?」 クラスに誰一人としていない状況ってどうなんだろうか。普段であれば誰か一人ぐらいはだべるだろうし、そもそも授業終了してたのなら誰か一人起こしてくれても良いじゃない薄情者! ……何てやり場のない怒りを抱きつつ、私は突っ伏していた机から身を起こし……!? 「――っっ!?」 教室の中が、得体の知れない謎の粉末に覆われていた。窓からぶちまけられたらしく、窓の縁に沢山隙間を埋めるようにびっしりとこびり付いているそれは、そこから放射状に教室中に飛び散っている。 「な……何なの……!?」 わ、私が寝ている間に一体何が起こったの……?あまりの意味不明さに呆然とする私だったけど、ひとまずこんな場所にずっと居るわけにはいけない、と自分に言い聞かせて……髪にも服にも付いた粉を手で払うと、粉まみれの鞄も手で払って、そのまま教室の外へ出た。 今朝から曇りっぱなしの空が、さらにその白色を濃くしたような気がした。……変だ……明らかにおかしすぎる……。 「何で……何で誰も居ないのよ……」 目に見えないだけじゃない。音も、全く響かないのだ。部活動が始まっていてもいい時間の筈なのに、ブラスバンドの音や、運動系部活の歓声が、全く学校の中に響かないなんて! それに……どの教室も完璧にドアが閉まっているなんて事はあり得ないし、増してや電気が全部消えているなんて事もあり得ない!ないない尽くしの状況よ! 「……どうしよう……どうしよう……」 ここまで異様な状況だと、本当に心細くなる。誰か……誰かと一緒にいたい……と言うより誰か他の人間が見たい! 「!そうだ!」 携帯で連絡をとればいい!学校は当然電波が入るし、美菜子や冬美、それに結はこの街に住んでいるから、絶対反応してくれるはず!慌ただしく鞄を漁り、教科書の角で手を傷つけ、何度か取り落としそうになりながらも手に取った携帯電話。 それを私は開いて――顔が蒼に染まった。 左上、アンテナに三本というお馴染みの記号は、圏外という無機質な二文字に変化していた。 「……何で……何でよぉっ!」 アンテナを伸ばし、あちらこちらに歩き回って電波を探すけど、それはただ私の体力をいたずらに消費していくだけだった。どうして!?どうして電波が届かないの!? 携帯が壊れた!?そんなはずはない!だって機能自体は無事だもの!ただ電波が届かないだけ――!?私は内心泣き出したかった。 どこかのホラーバイオレンスゲームのように勇敢に立ち向かえる気がしなかった。夢だと思えたらどれだけ楽だっただろう。 けど……これは紛れもない現実だと、傷ついたばかりの手の痛みが教えてくれる。心細いながらも、一人で帰るしかないのか……そう私が考え始めたとき――! 「――ャァァァァァァッ!?」 「――!?」 な、何っ!今の叫び!少し曇っているけど、明らかに甲高い女の子の声が、向こうの教室から響いた!思わず振り向いた私の目に、幽かに開いた教室のドアが映る。 一体何が――私は慌てて近付いて、教室のドアを開き――。――そこに地獄を見た。 「嫌ぁぁぁぁぁぁっ!誰かぁっ!誰かぁぁぁぁっ!」 錯乱したように叫ぶのは、私のクラスメートの一人。私の事に気付かないまま叫ぶその体のあちこちに、【真っ白な糸】がかかり、壁に貼り付けられている。 両手から腰はそのまま、両足は何故かM字になるような形で、時間割表の下側に貼り付けられていた。その横には、同じように壁に貼り付いた、楕円形の【真っ白な糸の塊】が幾つもあり、幽かにもこもこと震えている。 中には、規則正しく震えるもの、動かないもの、既に破られたものまであった。そして――クラスメートの正面に、'それ'は居た。 「――アァァミィィモォォノォォシィィマァァショ♪♪」 'それ'は、人間のに似た顔でとろけたような表情を人間のような声で、ゆったりと緩慢などこか滑るような動きでクラスメートへと近付いていく。滑るように、というのは、'それ'が持つのは人間の足ではなく、まるで疣のように皮膚の表面から隆起しただけの、人よりも遙かに数の多い足だからだ。 更に言うならば、'それ'の持つ皮膚も―― いや、言うならば'それ'の首から下も、人間のそれとは似ても似付かない。先端が窄まった楕円状のクリーム色の体に、幾つもの疣――足が付いている、まるで芋虫のような体だった。 「ウフフ……ウフフ……♪♪」 奇怪な笑みをこぼしながら近付く'それ'は、ちょうど人間の肩の位置からまるで人間の腕のように長いが、それの外観はさながら足の代わりに蚕を生やしたようになっている……蚕……蚕蛾……! 【見覚えのある路地裏】 【白い糸の塊】 【突き出た人の腕】 【飛び散る粉】 【蛾のような腹部】 【歪んだ笑顔】 【そして、瞳――!】 「――っっ!!」 今、今の風景は……!が、蛾の化け物……が……!?も……もしかして……い、今、今目の前にいるのは……!? 「嫌ぁぁっ!来ないでぇっ!来ないでぇぇむんんんんんっ!」 「フフフ……アァァミィィモォォノォォシィィマァァショ……♪♪」 知らぬ間にガクガクと体が震える私を余所に、この蚕と人間が融合したような化け物は、両腕の蚕から糸を噴出させて、クラスメートを覆っていく。 曇る声、見えなくなる姿……しばらくも経たないうちに、彼女は壁に貼り付けられた繭のうちの一体になってしまった。 「ぁ……ぁあ……ひっ!」 クラスメートが怪物に襲われているという気が狂いそうな情景、それを目の当たりにした私の目に、さらに現実離れした光景が、音を伴って飛び込んできた。 ――ぴしゅっ!ぴ……ぴしゅっ! 「――アハァ……アハハァ……♪」 繭に閉じた化け物が、その音に気付いて、よりだらしのない笑みを浮かべている。視線の先には……繭。ただし――その表面には、明らかに皹が入っている。 ――ぴしゅっ!ぴ……ぴしゅっ! どこか粘っこい音を立てながら、繭の表面の皹は広がっていく。徐々に、徐々にその面積を増していく度に、中からねっとりとした液体が、じわりじわりと染み出していった。 「――アハハ……フエタ……フエタ……♪」 奇妙に体をくねらせつつ、蚕の化け物は喜びの言葉を歌うように呟きながら、繭に向かっていく。そして――それは一匹だけではなかった! 「アハァ……♪」 「ウフフ……♪」 「ワァァ……♪」 「……あ……あぁ……」 教室の中にいた、同じような形をした化け物達が、ゆっくりと繭の周りに集っていく……。まるで葉っぱに集う蚕のように……。 集った化け物は、そのまま顔を繭に近づけて、まるで甘いお菓子にするように――。 「……ンチュ……チュ……」 「……レロ……ンンン……ンァ……」 ――舌を這わせ始めた。ひび割れた部分に合わせるように這わされた舌は、繭から漏れる液体を舐めとろうとしているかのようだった。この場所に香る異様な匂いは、多分この化け物にとっては好ましい香りなのかもしれない……。 「……ゥ……ゥァ……」 ……?繭がひび割れていく度に、繭の中から、呻き声のようなものが漏れてきている……呻き声?繭……まさか……まさか……! 「……ンチュ……ン……♪」 「……ンァ……ァ……♪」 皹が下に下がるにつれて、液体の流れは激しさを増し、それがさらに、繭の崩壊を早めていく。もしかしたら他の化け物が舐めることでも早まっているのかもしれない……。 ……そして――! ――ぴしゅっ!ぴゅ……、ぴ、び――びしゅるんっ! 「――ンアアアアアアアアアアアアアアアア♪」 皹が下まで下がった瞬間、繭は大きく裂け、その中に入っていた物が、液体を纏いながら滑り出てきた!縛られて、繭の中に閉じこめられて、時間が経って出てきたのは――周りと同じ、蚕の化け物! 「――い、いや、嫌、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 耐えられなくなった私は、錯乱したように叫びながら、教室から体の動かし方を忘れたようにちぐはぐな動きで逃げ出した!間違いない!繭に入れられたら、あの蚕の化け物になってしまう! 「誰かぁぁっ!誰かぁぁぁぁぁぁっ!」 さっきのあのクラスメートのように叫びながら、私は廊下を走り、階段を下っていく!自分でも何を叫んでいるのか分からない! 助けを求めたいのかもしれない、この風景を――この光景を嘘だって抱きしめてくれる他の誰かが欲しかった!けど……そんな存在がこの学校にいるはずは無かった! だって……だってさっき私、何も出来なかった!何も出来ないで、ただ茫然と眺めるしか出来なかった!誰が助けられる!? 自分が助かるかも分からないのに、声に答える余裕なんて無いじゃない!それでも叫ばずにはいられなかった!心細くて、怖くて、ワケが分からなくて! 「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」 這々の体で、学校から滑り出た私は――!? 「――あああああ、何なの、何!何!何なのよぉぉぉぉぉぉっ!」 私が暮らす街は、朝とは様相がすっかり変わっていた!一昔前、ネットに出回った数枚の写真のように、電柱も、電線も、立て掛けてあった自転車も、一部の家のドアすら全て……そう、全て!白い、白い糸で包まれて覆われていた!人通りは当然無い……寧ろあるはずがない。 こんな場所、普通の神経なら歩きたいはずがない!私だって嫌だよ!でも、学校にはもう戻れない!選択肢は一つ――早く家に帰るだけ! 「――えぇいままよぉっ!」 無理矢理体に活を入れるために私は叫び、その勢いを保ったまま家に向かって走る! 「アハァァ……♪」 「シュルシュル〜♪」 「ンアアッ♪アアッ♪アァ♪アァアアア〜ッ♪」 ――糸の向こうから、化け物の鳴き声が聞こえてくる……。きっと、他の家も同じような状態なんだろう。繭に包まれたように白に染まる入り口は、外からの侵入を防ぎ、内側に新たな世界を作り出している……。 化け物が本能だけで交わる、獣みたいな世界――。でも、その正体は全部――人。化け物に襲われて、繭にくるまれ、化け物になった人!嫌だ!私はそんな醜い化け物になんかなりたくない! 私は……私はぁぁっ! 「……っはぁ……ぁっ……ぁっ……はぁっ……ぁっ……」 周りの風景を極力目に入れず、私は兎に角家に向けてがむしゃらに走った。裏通りは――人が入っているだろう繭に、化け物が寄ってたかっていた。 そう――結が蛾の化け物に襲われた、あの通りも! どうして今まで忘れていたんだろう!どうして今までどうでもいいことのように思っていたんだろう! あれがそもそもの異変じゃないの!蛾の化け物が、私に何かしたんだろう!多分、ずっと忘れているようにとか、そんな暗示でもかけたのかもしれない! じゃなきゃ……最近あんなにぼぉっとした時間が増えたのも説明付かないじゃない!で――もうその暗示は必要なくなった……。だって……この街は、化け物の手に落ちたようなものなんだから……! 「……う……あ……ああああああああああああああああああああっ!」 寂しさと、悲しさと、心細さと……そんな諸々の思いが重なり合って、私は泣いた。泣きながら走って――誰にも襲われず、化け物にも襲われず、無事に、家に着いた。 「……はぁ……っ、……ぁ……っ……はぁ……っ……」 心臓がバクバクと音を立てている。膝は崩れ落ちそう。体が……重い。けど……家に……着いた。窓には糸が付いていたけど……ドアには、全く。助かった、とか、怪しいな、とか考える余裕は全くなかった。 ただ今は、家で休みたかった。それからどうするか考えたかった。……何も考えずにいられたら良かったのかもしれないけど……。 ……カチャリ。カチャリ鍵を開き、家に入る。 そのままお母さんが居るか居ないか関係なく……ドアに鍵をしてから、私は二回の自室へと戻ることにした。足が、重い。案外無理していたらしい……けど……やっと、やっと安心できる場所で休める……。 二階に上り、廊下をふらふらと歩き……部屋の前に着いた私は、深くため息を吐いてから、安堵の感情と一緒に、汗に濡れた手でドアノブに手を掛け、そのまま押して――。 「――りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃゆっっっっっっっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ♪♪♪おっっっっっっっっかえりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ♪♪♪♪」 「――んなぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!!!」 ――あ、ありのままに今起こったことを話すわ。私が自室のドアノブを開いたら、そこから結がダイビングキッスをかましてきた。 何で結が此処にいるの?とか、寧ろずっと待ってたんですか?とか、そもそもアンタ学校からいつ抜け出したのよとか、そんなチャチな問題じゃ断じて無い。 もっと恐ろしい、結の理不尽さを味わったわ……。既に疲労困憊の私に、彼女のダイビングタックルを防ぐ力もなく、そのまま一気に押し倒され唇を押しつけられる。 床に頭が激突するのを和らげるように、私の背中に柔らかな緩衝材らしき何かが押し込まれたお陰で、そこまで痛みは感じない……と言うか用意周到すぎ。 これ、最初から狙っていたのね、結。 ――私を押し倒してからの結の行動は早かった。 私の顔を正面に向けつつ、結の唇と触れ合わせる。そのまま疲れのあまり力がそこまで入らない私の口の中に、彼女の舌が一気に突き入れられる。 「んんっ……んゆぅ……んふむん……♪」 好意をそのまま私にぶつける普段の、と言うより先程までの結とは打って変わって、その好意を毛布にして私の体を包み込むような、優しく柔らかな舌遣いで、彼女は私の口を侵していく……。 抵抗する体力も膂力も、学校から家まで全力で逃げてきた今の私にはなかった。全ては、結のなすがままとなっていく。もふもふした、背中に敷かれた緩衝材(縫いぐるみのようなものだろうか)と私の背中の間に両腕を差し込みつつ、結は服越しに私の体に手を沿わせていく。 「んふ……っ、んんんっっ……」 服の上から触られるのはとてももどかしい筈なのに、汗に濡れたシャツが指と肌の隙間を狭め、鈍った肌の感覚を少しずつ呼び戻していくような刺激が、私の脈拍を速めていく……。ノーマルなはずなのに、私、結の指で感じてきちゃっている……。 「んん……んむ……んちゅ……」 口の中でも、結は私を思うままに蹂躙している。歯茎を、歯の隙間を、歯の裏をなぞりながら、潤滑液にするように、口の中に結の唾液を送り込んでいく。その唾液が――甘い。 ……何かがおかしい……こんな唾液の味……するはずがないのに……。 「――んんんっ……!んふんんっっ……!」 余所事を考えていた私を窘めるように、結は全身の愛撫を強め、舌の侵入を進めていった。唇がより強く押し付けられ、舌がさらに伸ばされ、私の舌に絡められていく。 服の上からブラジャーが外され、ずらされたところに結の胸が押し当てられる。布越しなのがもどかしい……脱いで、すり合わせて……?あ、私……何考えて……。 「んんを……んんっ……んあむ……んんっ……♪」 結の舌が、私の中で縦横に動きながら私のそれに絡まり、ぬりゅぬりゅと撫で、ふにふにと揉み上げていく。激しい……でも、どこか優しい刺激が、私の体を少しずつ火照らせていく……。 服越しの焦れったさに辟易したのか、結はゆっくりと、私の服を脱がし始めた。腰回りをしゅりしゅりと撫でつつ、私のシャツをたくし上げていく結。興奮で火照っているのか、結の手はとても温かかった。 そのまま腰、胸と布をずらしていくその度に、布地が私の肌を、乳首を擦っていく……。普段は気にならないような刺激が、今はどうしようもなくもどかしい。 ちくちくと細かい針で摩擦されるような刺激に、私はどうにももどかしいような、むずむずするような痛痒感を覚え、刺激を求めるように体をくねらせていた。 「ん……んむ……ぷは……ぁぁ……っ♪」 くちゅくちゅと淫らな音の余韻を口の中に残しながら、結はようやく唇を外した。唾液の糸が私達の間に架かるけど……その唾液はめくり上げられた私の服によって切られてしまった。 万歳の格好をさせられたまま、視界が完全に塞がれた私を、結はゆっくりと、足から引きずっていく……。多分行き先は――私の部屋。 「……りゆっちぃ……♪」 布によって若干和らいだ声が私の耳に届くのと同時に、背中に感じる、やや冷たくなった布団の柔らかさ。背中に敷かれていた物が抜かれたらしい。 「……うふふ……りゆっち……りゆっちぃ……♪」 結の声と一緒に、私の視界が開けていった。完全に上は剥かれてしまったのだ……!? 「ふふふ〜……あむ♪」 「!?!?んんっっっ!!!」 視界が開けた瞬間、いつの間にか上半身が裸になっていた結は再び貪るように唇を押し付けてきた!同時に手は――ってちょっと!何で下も脱がそうとしてるのよ! 「んんんっっ!っ!んんんんんっ!」 力は入らないながらも抵抗する私を押さえつけるように、結は舌を再び激しく蠢かせ、胸を押し付け、乳首を触れ合わせていく! まるで私の口を全て結の物にでもしようかとしているかのように、結の舌は私の口の中を蹂躙していく! 舌の裏の敏感な部分を執拗に擽ったり、歯間に沿わせて歯ブラシのように上下させたりしながら、甘い唾液を塗り込んでいく……! 「んんんぅん……んんっん……んんっんん……♪」 口の中でりゆっちと語りかけながら、結は異様な甘さを誇る唾液をどんどん送り込みつつ、舌を絡めていく……。同時に、手では私の下着をずらしつつ、股の間に彼女の脚を入れていく……。 露わになった私のお〇んこに、結は臑を器用に沿わせてスリスリと動かしていく……。手入れがされているのか、産毛一つ無い太股が、まだ開いていない私の股間を擦り上げていく。 抵抗しようと動いた私は、股間がそれを挟み込むように突き出してしまった! 「――!!!んんんんんんんんんっ!」 筋が口を開き、内側に隠した柔肉が結の太股に触れた瞬間、私の体を電撃が貫いた!普段滅多に触れはしない場所、そこに意識せず図らずも触れてしまった、その肉の生々しい感触一つ一つが、私の体の性感帯を巡るように駆け、叫び出しそうな刺激と快楽を私に与える! ビクンビクンと震える私の体をいなし、さらに快楽を与えるように、結は私の下着を脚を使って足首にまでずらしつつ、結自身の股間を私の太股に押し付けた!同時に両手は私の腕を押さえ込みながら顔を固定させ――! ――ずぢゅううううううっ! 「――んんんんんっ!んんんっ!んんんんん〜〜っっっ!」 す、吸われるっ!私の舌が、結の、結の口に吸われていくっっ!舌先が歯にやわやわと噛まれ、もどかしいような切ないような刺激を送り込んでいくぅっっ! 舌を吸うのと同時に、私の口に溜まった唾液も、結の中にすいこまれていくぅぅっ!仄かに冷たいような、それでいて生暖かいような不思議な感覚が、口の中から頭に直接叩き込まれていく! その間にも、私の股間には太股が何度も押し付けられ、塗れた敏感な膣肉にもどかしい刺激を与え続けている!いつの間にか両手は私の背中に回され、さわさわと擽るように撫で始めていた! 私の太股にすり付けられる結の股間は、既に洪水を起こしていて、鈍く光る液体が私の太股を覆うように瞬く間に広がっていく……! すり付けられた結の股間は異様に柔らかく、まるで私の体が沈むんじゃないかって思えるほど、私の体を深く招き入れていた!マッサージでもするかのように、挟み込んでは離していく結のお〇んこ。 それはまるで、私の体に無数のキスの雨を降らしているかのよう……その動きは段々と激しくなって……! ――にぢゅっ! 「!!!!!っ!!!!!」 太股から、私の股間へと標的を移した結のお〇んこが、口と同じように私のその場所へと一気に吸い付く!押し付けられるだけの太股とは違って、吸盤のように股間に密着してくる彼女の秘所は、まるで私の子宮を引きずり出そうとするかのように密着して吸い上げていく! 離す瞬間は引かれる余韻が残って、再びくっつく瞬間にはまるで磁石に引かれるように深く密着していく私の秘所からは、じくじくとする鈍い痛みのような刺激と一緒に、体の中をじりじり燃やす炎のような快感が生じて、心を繋ぐ糸をゆっくりと、しかし確実に燃やしていく……! 口の中の甘みが抵抗の力を弱め、背中への愛撫と弾き合う乳首が心を乱し、繰り返す下の口のキスが心の糸に油を垂らしてどんどん炎を広げていく――! 「んんんんんっ……んんんっ……んん♪」 私の目の前でだらしのない笑みを浮かべながら、結は腰を一瞬高く掲げると、そのまま私の股間に深く押し付け――っっ!? ――ぴにゅ 「――っっっっっっ!?」 ――え……?今、結、何に、触、れ――!? ――ぷしゃあああああああああああああああああああっ! 「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!」 ――度重なる結の性的なアクションによって、私の陰核は充血し、徐々に敏感になっていった。 そんな陰核を、結はまるで唇でくわえるように、股間で優しく圧してきたのだ!既に心を繋ぐ糸が千切れかかった中に行われた、駄目押しの一撃。 耐えることが出来なかったは、その場で、達してしまった。結も同時に達したのか、私の体に全身を預けていく。まだやりたいのか、乳首同士をくっつけていく。 どくん……どくん……、緩やかな脈のような音が、結の中から、私の中に響いていく……。 「んん……んん……んっ……ん……」 ……段々、体から力が抜けていく……。指先から、腕、肩……。先っぽから、少しずつ、私の体の感覚はそのままに、麻痺していく……。 ――みしっ……みしっ……。ベッドが、二人分の重量を受けて音を出す。結が激しく私を求めて、お〇んこをお〇んこに押し付け、腰を上下させている……。 てらてらと、私の片方の太股が鈍く光る液体に濡れている……。人肌くらいの暖かさを誇るそれは、すっかり私の片股を覆ってしまっていた。 「んんんっ……んんっ……んんん……んぁぁ……♪」 何度も上下の唇を私に押し付けた結は、やがて満ち足りたような、ふにゃりとした笑顔を私に見せると、そのまま私を抱き起こした。 何度も彼女に体を重ねられ、体の力という力を抜き取られた私に、彼女の行為に抵抗する力なんて無くて、ただ彼女のなすがままにされていた……。 「……りゆっちぃ……♪ほんとに……りゆっちって……かわいい……♪」 結が、私のことを可愛いと言っている……けど、その可愛いは、今までのとは何かが違っていた。けど、それに反応する気力も、そもそも違いを意識する気力も、私にはなくなっていた。 「ふふふ……だからぁ……♪」 私に、何処か恥ずかしげに結は話してくる。その表情すら何処かおかしいのに、私はそれに気が付く体力がなかった。 「私のハジメテ……りゆっちに……あ・げ・る♪」 完全に惚けた状態の私に、結は心から幸せそうな笑みを浮かべながら呟くと、何気なく私の腕を後ろ側で組ませるように動きながら……少し後ろに下がった。 そして、何か言いたげに口を開いた――その時だった。 ――ぶしゅうっっ! 「――ひ……きゃあああっ……!」 結の……結の口から、大量の白い糸が溢れ出して、私の体をベッドに縛り付けた!私の上腕から先と太股から先を縛り、胸元と股間が露わになっている状態で全ての動きを封じている! ――ふしゅるるるぅっ!しゅるっ!しゅるっ!さらに吐き出される糸は、私の体をさらに縛ると同時に、胸や腕、脇や太股と結の体を繋いでいく……!? この白い糸……まさか……まさか……!恐怖に震えながらも結の姿を見た私の目に映る物は――!? ピシッ、ピ……ピシュウッ! 「――……ぃ……ぁ……っ!」 結の背中が、異様な形に膨れ上がる。いや、既に口から吐き出された糸が私を縛り付けた時点で、異様な姿と化している事は疑いようのない状況だ。その糸を吐いている顔が、萎む。いや、一気に乾燥し、蛹のような色合いになる。 顔だけじゃない。彼女の全身が一気にその色に染まり、質感すら変わっていく。もごん、もごんと蠢く――まるで皮膚の内側で何かがのたうっているかのような結の両腕。それが一際膨張し――弾けた!同時にそこから大量の糸が発生し、瞬く間に彼女の全身を包み込んでいった! 「……あ……ああ……」 私の目の前で、結が全く異形の物へと姿を変えていく……。繭に……学校で見た繭に……! 「……い……いや……いやぁ……」 力を無くしてしまった私の股間は、しおしおと黄金色の液体を流してしまっている。それらは全部私を覆う白い糸が包み込み、あるいは吸収してしまい、ベッドを汚すことはなかったけど、今の私にそんな事を気に掛ける余裕はなかった。 「……いやぁ……どくん、どくんって……」 私の心臓の真上にある皮膚に繋がった糸の束から、繭の脈動が生々しく伝わってくる。 どくん、どくんっと、中で命が蠢いているのが分かる……。 どくんっ、どくんって響く度に、私から力が奪われ、同時に私の意識もややぼやけていく……。 この糸が、私から力を吸い取って、繭の中にいる、結だった物に向けて送っているに違いない。まるで、寄生虫が宿主を養分にするように……。 「……いや……いやぁ……いやだよぉ……しにたくない……しにたくないよぉ……」 まるで子供のように泣きじゃくる私の側で、繭は脈動を続ける。 その音は酷く不気味で……でも、何処か優しい響きがして……。 ――どぐんっ―― 「……ぁ……ぁぁっ……」 痛くはない。寧ろ時々、何故だか気持ちいい……。けど、同時に私の中から何かが抜けていく……気がする。幽かに糸が光っている……。 体に貼り付いた糸が、私の体から光るものを抜き取って、繭に……。逆に繭から光るものが……私に……。 ――どくんっ―― ……気怠い……。凄く、気怠い……。いつの間にか恐怖は消えていたけど、それ以上に、体全体が段々重たくなっていく……。 何か……どうでも良くなって……いく……。何も……考えられない……。 ――どくんっ……どぐっっ!―― 「……ぁ……!んんっ……!」 一際大きな音を立てて、結を包んだ繭が脈を打ち、震えた。体の奥に根を張ったように繋がる糸が、その衝撃を私の全身に一気に流し込んでいく。 その感触が――たまらなく気持ちいい。不気味なモノに与えられているはずなのに、気持ち悪いはずなのに、何故か私の頭は、私の体は、その衝撃を快感として捉えていた。 じゅん、と、私の股間が物欲しそうに呟く。脱力した体は、それを閉じた状態に留めておくことが出来ずに、とろとろと垂れ流していく……。 じゅっく、じゅっく。そんな奇妙な音を立てながら、私を覆う糸はそれを吸収し、繭の脈動を速め、強めていく。 ――どくっ!どっく!どくっ!どくんっ!―― 「……んぁあ!あんぁっ!んんっ!んあんんっっ!」 繭の中で、何か大きな変化が起こっているのか、私を震わす衝撃がさらに激しくなっていく! 心臓が、血管が、皮膚が、筋肉が、内臓が――体が、全身が痛くなるような、異常な衝撃を、私は立て続けに与えられ、その度に血液が沸騰しそうな程に熱く、体が痺れそうな程に痛く、そして自慰よりも遙かに気持ちのいい快感が、私の心臓を激しく高鳴らせる! まるで繭と一体化しているかのように、私の心臓は私の体の中で暴れている!血が血管を擦るそんな刺激ですら、天に昇るような絶頂に変えてしまいそうな程に過剰に脈を打って、私の全身をどんどん火照らせていく! 同時に、何処かもどかしいという感情も私に植え付けていく。もっと、もっと解放されて、もっと抱きついて、もっと、もっともっともっと……! 段々と思考が変になっていく。熱にやられたのかもしれない。ずっと縛られているからかもしれない。けど……このもどかしい状態から解放されたいのも――事実。そんな私の思いとはよそに、結の繭は激しく脈動を続け、そして――! ――びしゅ! 「――!!!!!!」 突然、何かが破れるような音が部屋に響いた!同時に、体に貼り付いていた糸が、若干撓む。私はその音に――と言うよりもむしろその音が意味する状況に、一気に我に返った。 ――繭だらけの教室 ――内から破られた繭 ――縛られたクラスメート ――蚕のような姿をした化け物 「――ぁ……ぁあああ……っ!」 今、私は一瞬、何を考えていたんだろう……!もどかしいなんて、解放されたいなんて!糸で縛り付けられて、力を吸い取られているのに、気持ちいいなんて躰を震わせて! 繭の中で、結はきっと、あの芋虫のように変化していくんだろう。あの、鈍くて、本能だけで動く、奇妙な出で立ちの化け物に――! ――びりゅっ!び、びゅ……びゅじゅっ! そして、きっと私も、繭から出てきた化け物に『あみもの』されて、包まれて、その中で化け物になってしまうんだ……。蚕のような化け物に……。 「い……いや……嫌ぁ……嫌ぁぁぁぁぁ……」 嫌々と首を振りつつも、私に出来ることはもう無い。あるとすれば、この目の前の繭が破れ、化け物が出て来るのを待つ事だけ……。 ――びぃ……びじゅ、じゅ……びっ!びびびびりゅゅっ! 「!ひぃぃぃぃぃぃぃっ!」 目の前の繭が、先程までよりも勢いよく激しく破れる!まるで私に対して怒っているように。失礼なことを思うなと、私に対して訴えているんだろうか……! ――びゅ、びゅりゅっ…… ……勢いよく繭が破れた方向は、私側じゃなくて、反対側。繭の動きが止まり、中に溜まっていた液体が零れ、私のベッドに広がっていく……。 がさり、がさりと音を立て、繭の中から何かが這い出そうとしている。いや、そんな乾いた音じゃない。もっと湿った――そう、濡れた肉同士が触れ合うような、ぬるりとした音だ。 それでいて、空気を含んだ、何処か下品な――。 『――んぁぁ……ぁ……んん――』 歌うような声が、繭の中から響いてくる――!その声が繭の糸を揺らして、私の体を切なく揺らしてくる……! 気持ちいいという感情が刻み込まれた私の体は、恐怖の感情を押し退けるように、快感をごり押ししてくる――! 「ふぐっ……くはぅ……きゃう……!」 びくびくと震える体。先程までより鈍いのは、恐怖があるからか。でも逆に恐怖があるから、刺激が体に程良くなって、快感が染み入っていく……! 『んぁ……ぁ……んああ……ああ……♪』 ずっ……ずりゅっ……。向こう側で、繭から何かがせり出していくような音がしている。迫り出すものが何かは分かる。結……だったものだ。 それは間違いはない。それがどんな体をしているのかも分かる。教室で見たような、蚕……(じゃないよ)……じゃなくて……それが羽化したような……? ……え?今、私、何を考えて……?何かが私の頭に語りかけたような、そんな感じが……。 『んぁっ♪んぁっ♪んぁあああああっ♪』 ず――ずりゅ、ずりゅっっ!!!繭が陰になって見えないけれど、繭の中にいた影が少しずつ、繭から体を出しているのが分かった……けど、何かがおかしい。 蚕がたなら、頭が先に出るはずだから、声は部屋の中に響くはずだ。でも……その声は繭の中に響いている。結は……蚕じゃ……ない……(羽化した)……(私のために)……? 変だ……頭の中で、また何か声がする……。それも、段々、はっきりと……頭の中に……。頭の中の得体の知れない声に翻弄される私。その間にも、繭からは結だったものがずるりずるりと抜け出してきて、その度に繋がった繭が震えて、私に得体の知れない快感を与えてくる……。 ――ず……ずりゅうううううっ!ぶしゅっ!ぷしゅっ! 『――んぁああああああああああああああああああああっ♪♪』 ――そして、その時が訪れた。蚕の化け物とは違って、はっきりとした声で、達したときのような叫びをあげながら――結だった者は、私の部屋の中で『誕生』した。まだ多少荒い息を調えるように、繭の向こうで今出たばかりの繭に掴まり、もたれ掛かる'結'。 繭から溢れた液体が独特な香りを放ち、私の部屋を異様な雰囲気に変化させている……。私は動けない。いや、動く元気も、体力もない。 もはやなすがままにしかならない状態だ。繭の向こうの存在によって、私は変えられてしまうだろう……。そう思うと、悲しくなってくる。 何でこんなことに巻き込まれなくちゃいけないんだろう……って……。 『――ふぅ……ふぅ……ふぁ……んぁ……ぁあ……♪』 と、'結'の声が、まるで体に感覚が通っていくような気持ちよさそうなそれに変化した。 同時に、繭の向こうで、何か萎れた布状の物が飛び出し、それが少しずつ広がっていく……?あれは……羽?それも……昆虫のような。 徐々に繭の横から姿を現していく羽のようなもの。同時に、私の前にそびえ立つ繭が、重みに耐えきれなくなったかのように、ゆっくりとベッドの上に萎れていく……そして。 『――んあああああああぁぁぁぁぁぁ……♪』 ――ばさ……り……ぽふっ 「――ぁ……ぁぁ……」 '結'が解き放たれたように喘ぐのと同時に、目の前の繭はすっかり萎れ、'結'の全身が私の眼前に映し出されたのだった。言うならば、 『蚕蛾と結を融合させたような存在』。 基本的なプロポーションは人間のそれである。しかも、私の知っている結を、さらに美人にしたような顔を持つ。 ふわふわとした髪に、華奢な腕、引き締まった腰にすらりとした脚……輪郭だけで見れば、これほど魅力的な存在はないと思う。 あくまで、輪郭だけで判断すれば――実際は、今述べた顔以外の何れも、人間らしさの欠片も見えない。肘や膝関節だったところは、昆虫特有の節に変化し、二の腕も、上腕も、太股も脛も脹ら脛も、手の甲や爪先を除く脚までもみんなもふもふとした柔らかな毛に覆われている。 爪先は先端が二つに分かれ、何処か鋭そうな爪が存在を主張している。 指は五つに分かれているが、腕の数がまず違う。人間とは違う、どことなく暖かそうな四本の異質な腕。 それらが'結'の意のままに動いて――蠢いている。腰回りは、お臍の辺りから下がふさふさとした純白の柔毛に包まれていて、まるで下着を着けているよう。同じように、胸の辺りから首元にかけても、白い柔毛がさながら衣服のように体を覆っている。 顔は、人間と同じような、しかし幽かに尖った耳の上には、二つの半球状の複眼のようなものが、まるでお団子のように付いていて、その奥辺りから、櫛のような蛾の触覚が一本ずつ、しゅっと生えている。 額には……何だろう、勾玉のような物が付いていた。そして、背中からは一対の巨大な羽が生え、お尻のちょっと上辺りから、'結'の胴体よりも太い蛾の尻尾が、プックリと発生していた……。 ――間違いなく、結であって、それでいて間違いなく、結じゃなくなっていた。 『ふふふ……♪やっと、やぁっと、この姿になれた……♪』 「……ぁ……ぁあ……結ぃ……」 人間にとっては理解できない嬉しさを呟く結に、私はただ呼び掛けることしか出来なかった。正気に戻って欲しいという思い、けどそれは今の結の姿を見れば不可能だと分かる。 結は、自分で繭になって『産まれた』のだから。 『ふふふ……りゆっちぃ……♪綺麗でしょう?この姿……♪』 逆らいがたい圧力、逆らったら無事では済まないような圧力を感じ、私は必死で首を縦に振った。実際は得体の知れない恐怖でちゃんと振れていたかも分からないけど。 それを眺めた'結'は、心の底から幸せそうな、でも何処か普通とは違ってしまった笑みを浮かべながら続きを口にした。 『よかったぁ……♪りゆっちに、初めに見せたかったんだぁ……♪』 四本の腕で自分の体を抱き締めつつ、くねくねと体を動かす結。その度に、彼女の羽からは謎の粉――多分、鱗粉だ――が飛び、部屋の中に待っていく……。 私はその光景に、悪夢以外の何の要素を見出せばいいか分からなかった。目の前にいるのは紛う事なき親友で、しかも人間だった筈で、その片鱗は見え隠れするけども、姿や思考は、間違いなく化け物のそれで、しかも私に見せたかったって……じゃあどうして今まで見せられなかったの……? ぐるぐると回る思考の中、ゆっくりと近付く'結'。心なしか、頬は赤らみ、息はやや荒くなり、彼女の蛾の腹部はピコピコと動きながらも先端は私を向いている気がした。 『ふふふ……りゆっちぃ……♪』 '結'が私に、にへら、とだらしのない笑みを浮かべる。けど、そこには何処か企みのような物が見え隠れしていた。まるで悪戯を考え付いた子供のような笑み……私はそれに恐怖し、躰を震わせた。 「……な……なにぃ……」 そんな私の様子を気にかけることなく、'結'は繭があった位置に立つと、すっと、耳に入るような声で言った。 『問題でーす♪私の中で、特にりゆっちに見せたかったものはなんでしょー♪』 「……へ……?」 見せたい……もの……? 『うん♪この姿になったら、りゆっちに特に見てもらいたいものがあるんだ♪その場所は何処だと思う?』 「……え……?」 わ、分からない……。何処を指しているのか分からない……。そもそも私としては何処も出来れば見たくない。けど……顔が、背けられない……。 '結'の出した問題の答えを見つけようと、'結'の体を見つめる私に向けて、'結'は早々に、問題の答えを告げた。 『正解は――ココだよ♪』 ――ふわぁ……♪ 同時に結の背中から生えた羽が、部屋の中で大きく広がっていく。見る人を幻惑させるような模様に、私は思わず見入りそうになって―― ――見てしまった。 『うふふ……♪どうかな?私の'瞳'は……♪りゆっちなら、きっと、気に入ると思うんだ……♪』 ――鱗粉に歪んだ蛾の羽。 『ずぅっと……りゆっちを見ていた……私の'瞳'♪』 ――さながら万華鏡のように姿を変える、幾何学模様の真ん中。 『ずぅっと……好きだったんだよ……♪』 ――私を、見つめている。 『ずぅっと……ずぅっと……♪』 ――深く、深く、見つめている。 『……ふふ……♪ふふふふふ……♪』 ――心の奥底まで、貫くように……双眸が。 『……りゆっちぃ……♪』 ――私……を……。 -------------------------------------------------------------------------------- 『――忘レナサイ……。 時ガ満チルマデ、今ノコトハ忘レルノヨ……。 時ガ満チテ、思イ出シタラ……。ソウネ……。 ……私以外ノ羽ノ'瞳'ヲ見タラ……ソノ持チ主ニ、貴女ハ囚ワレルノ。 体モ……心モネ♪ ダカラネ……ソレマデハ、'娘'カラ逃ゲ回ッテ頂戴。恐ガッテ、嫌ッテ、泣キ叫ンデ……。 ソウシタラ……貴女ハ真ノ祝福ヲ受ケルワ……フフフ♪』 -------------------------------------------------------------------------------- ――どくんっ…… 「――ぁ――ぅ――」 躰が……熱い……熱い、熱い……熱い。体の中、内臓、血管、筋肉、シナプス、神経、表皮……あらゆる場所が、焼き切れそうな程に熱くなっていく。 「――ぅ――ぁぁ――ぁ――」 それでいて……その熱が、何処か心地いい。じわりじわりと広がる熱が、胸、首元、頭へと広がっていくのが――気持ちいい。 「――ぁー――ぁぁー――ぁぁー――」 頭に繋がるあらゆる神経や血管から――熱が、暖かな熱が、頭の中に向けてじわじわと流れ込んでくる……。 「――ぁぁー――ぁは――ぁはぁー――ぁぁ――ぁ♪」 頭の中が、ちりちりと暖かくなっていく……。心臓が、とくん、とくんって切なく歌っている……。結の、そう、結の'瞳'が、私に――。 『ふふふ……りゆっちぃ……♪そうだよ、怖がることなんて無いんだよぉ……♪』 結が私をあやすように語りかけながら、羽から鱗粉を飛ばして、部屋の中に飛ばしていく。段々と、私の視界が狭まって、結しか見られなくなってくる……。 「――ぁぁ――ぁは――♪」 白痴のように涎を垂らしながら、私は結を上目遣いで見上げる。それだけで私の心は熱を帯びて、心臓は高鳴っていく。 頭の中がピンク色になるって……こんな事を言うんだろうな……。締まりのない私の股間が、じゅん、と音を立てて潤んでいく。 トロリと溢れた液体は、繭糸を伝って、ベッドに染み込んでいった。 『りゆっちぃ……♪ふふふぅ……りゆっちぃ……♪』 一歩一歩、結は私へと近付いていく。その姿を目にするだけで、私の頭はアドレナリンを大量に生成して、熱い血に流し込んで、体内に行き渡らせていく――。 どくんっ、どくんっ。心臓が鳴る度に、私の視界にも、頭にも、靄が掛かり始める。吐く息が、夏なのに白くなっている気さえする。同時に――♪ 「――んゃぅ――ぁぅ――んんぁ――ぁああー――♪」 私の肌が、少しずつ敏感になっていく……♪ 今までは何とも感じていなかった風の揺らめきが、肌にねっとりとまとわりつきつつ、産毛の一つ一つを逆立てるように撫でていくように思える……♪ 結の羽が起こす風が、体のあちこちへとその柔らかな触手を伸ばして、私を包み込んでいく……。 擽るようで、抱き締めるようで……火照った私の体を、程良く冷ましていく……。 『はぁ……はぁ……はぁぁ……♪』 「ふぁ――はぁ――ぁはぁ――♪」 既に私の眼前にまで、結は迫っていた。股間に股間を擦り寄せつつ、私の顔に、結の顔が近付いていく……。 人じゃないはずなのに、その表情は、人よりも人らしい。心の底から私が好きで好きでたまらないという笑み。それに応えるように、私は恍惚の表情を浮かべた。 羽はさらに広がって、私の姿を外から見えないようにしていく。それはさながら、子を匿う親鳥の羽のよう……♪鱗粉が、結の温もりを伝えていく中で――♪ 『……んむっ♪んん……ん♪』 「……ん……ちゅ……んん♪」 結は、私の唇に自分のそれを合わせて、人間の時と同じように舌を突き入れてきた。私の口の中に侵入した舌は、人間のよりも細くて、そして長かった。 それでいて、私の肌と同じくらい暖かい。その舌が、私の口の中を這い回り、その体を擦り付けていく……! 『……んん……んんっ、ん……♪』 私の歯を、歯茎を、歯間を、裏唇を、まるで味わい尽くすように舌を這わせ、或いはすり寄せ、舐め擽っていく結。 まるで神経が皮膚の上に浮き出て、その場所を直に、ただし触れるか触れないか分からないくらいの圧力で撫でられているような刺激が、私の首筋から全身に伝播して、その体を震わせた。 まるでぬるま湯の中のアイスクリームのように、とろとろととろけそうな私。そんな私を見透かすように、結は口の中で半開きになった歯から舌を突き入れると、歯の裏を制圧した後で、私の舌に絡めて、巻き付かせてきた。 適度に暖かい彼女の舌が、まるで舌の隅々まで愛撫するように巻き付いて、裏の筋や味蕾、根元の部分や先端などに、ぎゅっ、きゅっと熱いハグを繰り返してくる。 いつの間に糸が外されたのか、結の四本の腕が、私の背中に回され、ふさふさした毛で私の背中をなぞっていく。まるでパフで撫でられているような気持ちよさに、私は瞳を潤ませ、目を細めた。 つつつ……と、すっかり敏感になった舌の表面をなぞるように動いて行く結の舌。少し動くだけで、まるでぬるぬるとした蛇が這うような、不快とも快感とも言えない感情が、私の心臓を高ぶらせていく……? 『んっ……んんっ……んん――んっ♪』 突然、結の舌の根元がぷくり、と膨らむ。その膨らみは段々と私の中に近付いていく。そして舌の表面に這わされていた先端に向けて――ぷしゅうっ! 「――んんんっ……!?」 突然、結の舌先から、何か熱い液体が私の中に放出された!幽かにピリピリとする、舌の暖かさからは考えられないほど冷たいその液体は、まるで勢いよく蛇口をひねったホースのように何度も口の中で方向を変えながら、ぷしゅっ、ぷしゅっと私の口中に放出されていく……。 痺れるけど、どこか甘い……。舌の根元から送り込まれていく液体が結の舌を複雑な形状に膨らませては凹ませて、私の舌に予想もしないタイミングで刺激を与えてくる――! 「んんっっ……んんんっっ……♪」 それに合わせて結の四本の腕も私の背中をまさぐり、柔らかな毛で覆われた胸も、私の胸に押しつけ、すり付けられていく……♪ 背中に通る性感帯に沿って、彼女は両腕を、指を巧みに動かして、時にやや鋭い爪を立てて背中をなぞり、つつつ……と音を立てて緩急を付けた刺激を送り込んでくる……♪ それと同時に、結の体を覆うもふもふとした毛が、柔らかな感触を私に刻みつけていく。猫じゃらしよりも細かい、きめ細やかな繊維の一本一本が私の中に、くすぐったいようなもどかしいような、それでいて気持ちよく感じるような不思議な感覚を送り込んでくる……!? 「――!?ん――んぁ――んんんっ――!?」 体の中が……また……熱い。ピリピリしていた場所から、じんわりとした熱が、また広がっていく……!でも、全く気持ち悪くはない……寧ろ、気持ちいい……けど……もどかしい……! 『んん……んん……んふん……♪』 そんな私の様子に、甘く蕩けた微笑みを返しながら、結は――しゅるるる、と巻き付けた舌を一気に口の中に戻していく!ぬるぬるとした表面が、すっかり敏感になった私の舌を一気に擦り上げていく! 「んゆんんんんっ!んんんっ!んんんんんっ!」 まるで生肌に巻き付けられた帯で回らない悪代官ごっこをされているような、巻いているものと巻かれているモノが互いに擦れ合う感覚に、私の視界に一瞬星が舞い、体はびくんびくんと大きく震えた。 もしかしたら、一瞬漏らしてしまったかもしれない。そんな恥ずかしさすら、私の頭は快感のスパイスに変化させていた。すりすりと、胸と胸をすり付け、四本の腕でがっしりと私をホールドしている結が、その長い舌を口の中に一度納めると、そのまま顔を一寸離し、にんまりとした顔のまま、口を開いた。 ――そこには、人間と何ら変わらない舌があった……。 「ふふふ……♪私の舌は自由自在なんだよぉ……♪」 口の中で、まるで飴細工のように舌の形を変えていく結……ぬらぬらした唾液に濡れたそれが自在に形を変えていく様子は、まるでナメクジがのたうつようにも見えて……体がじゅん、とした。 物欲しそうに開いていくのが分かる……。ずくん……ずくんと、体は疼く。結に飲まされた何かの所為かもしれない。 体の中で何かが暴れ出しそうな、体の毛全てが性感帯になったような、そんな感じがする……!今すぐ……今すぐにでも、結に何かして欲しい……! そんな様子なんてお見通しの結は、心なしかさっきより甘ったるい声で私に尋ねてきた。 『ねぇ……りゆっちぃ……♪気持ちよく……なりたいぃ……?どこまでも……高く、高く飛びたいぃ……?』 期待させるように、私の背中で彼女の両腕が動く。もふもふとした柔らかな毛が、まるで私の背中に文字を書くように滑り、指先は私を楽器に見立ててもどかしい喘ぎのメロディを奏でていく……。 『……ふふ――』 抵抗力を無くし喘ぐ私は……素直にこくん、と頷いた。結の瞳が……勾玉の形に変化する。開いた穴が、私を貫くように光を放つと――!? 『――いただきます♪』 ――ちゅつぷっ 「――!?」 結が、私の首筋にキスをしたのと同時に、首に何かが刺さり、うねうねと入り込んでいく! 表面がぬるぬるしたそれは、そのまま、じわりじわりと私の中に入り込んでいく……! まるで注射針が痛みもなく体の奥に入り込んでいくようなその感覚に、私は声を上げようとして、その口は結の手に塞がれた。 叫べないまま、ずゅるずゅると柔軟な物体は体の中に根を張るように進んでいく……。 痛みを感じる部分を避けているのか、ずぶずむと奥へ奥へと侵入していくそれに対して感じるのは、不快感にも似た快感だった。 何というか、私が異質なものに征服、蹂躙されていく快感……そしてそれを行っているのが、結だって事が、心に得体の知れない安心感を生み出して、それが気持ちよさを増やしていく――!? ――つ……ぷん 「――ひぅ!?」 え……?体の中で、何かが、つぷんっ……て……何を、貫いたの……!?背筋を走る悪寒、それにびくっと体を震わせると――!? ――ぢゅるるるぅぅぅっ!ぢゅるるるぅぅぅっ!ぢゅっ!ぢゅっっ!ぢゅぅぅぅううっ! 「――ひぁ、ぁ、ぁぁ、ああああああああっ……♪」 ――吸われてるっ!私の、私の血がぁっ!血が結に吸われてるぅぅぅぅっ! 体の中に根を張った何かが、どくっどくって脈打って、暖かい血を結の中に送り込んでいくぅぅぅっ! 実際に体の中から酸素が抜けていっているのかもしれないけど、まるで酸欠になったように頭がふわふわしていくよぉ……♪ 暖かかった体の熱が、ほわほわしていくぅ……っ♪指とか、足とかぁ……♪ふぁぁぁぁ……♪私がぁ……私が吸われていくよぉぉ……っ♪んぁ、ぁ、ぁああ……!? ――ぶしゅううぅぅぅぅっ!ぷしゅっっ!どくっ!どくぅぅぅっ!ぶぢゅううううぅぅぅっ! 「――あ、ああ、う、ああ、あ、あああああああああああああああああああああっっ!!」 吸われるだけじゃない!吸った分を戻すように、私の中に何か……ピリピリする――さっきの液体が流し込まれていくぅぅぅぅぅっ! 「あひゃあ、あああ♪♪んあぁあ♪あぃひゃあああ♪あやああああああ♪ああぁあああんっ♪あ、あっ、あああああ♪」 ――ぢゅるるるるるぅぅぅっ!ぶしゅううううぅぅぅっ! あぁ……私の血がぁ……私の血じゃなくなっていくぅ……♪ あたまのなかにも流れてきたのか、ぴりぴりしてくるぅ……♪息苦しさは、ない……♪ぽわぽわして気持ちいい……んひゃう♪ 「んひゃああ♪んあぁああうあっ♪あぁあああっ♪」 結が、結が私をなでなでしてくるのくすぐったいぃっ♪さわさわされるだけでびくびく感じちゃうぅぅぅっ♪ ん、やぁ……んひゃぁ、あああっ♪……も、もう、きもちがよすぎて……♪ ――ん、や、やぁぁ……♪首からはびゅくびゅくって吸われて、流されて……♪体はじんじんじくじくしてぇ……んひゃあああっ♪あぁ……あ……いく……いくぅ……♪ いっちゃううぅぅぅ……っ♪ 「んぁぁ、ぁあ、あああ、ああああああっあああああ、あ、あああ♪」 ――とくっ……とくっ……しゅる……しゅく…… ああ……とくん、とくんってくびがなってるよぉ……♪♪ ぽわぽわしたようなおとがぁ……♪ ――どくん……どくん……しゅる……しゅく…… どくん、どくんってしんぞうがなって……それがピリピリしたのをひろげて……ん……あ、ぁあ……あああああああ♪ ――じゅくんっ!じゅ、じゅるっ!じゅぶっ!くびぃ♪ くびからどんどんふかくにはいってくるぅぅっっ♪♪あぁ、ああ、あおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお♪♪♪ あたまも、くびも、かたも、うでもても、むねも、こしも、おなかもおしりもあそこもおまたもふともももあしもみんなみんなみんなみんなぴりぴりしゅるぅぅぅぅぅぅぅっ♪♪ んぁあああっ♪んぁあ♪んぁぁあああああああっ♪ 「――あああああああああいいあああああああいあいいああああああああ♪♪♪」 ――すわれて、もどされて、ぴりぴりっとして、じゅくんじゅくんして、いって、いって、じゅくじゅくして―― ――ちょっとさむくなって、すぐ、あたたかくなって、すぐにからだがじんじんして、びくんびくんふるえてきて―― ――こなが、ぱさぱさって、わたしのところにいっぱいおちてきて―― ――あは、あ、あは、あはははは、あははは、は、ははははははははははははははひはははひひはははははははははは―― 『――っ、ぷはぅ♪ふふ……りゆっちの血、本当に美味しかったよ……♪』 しゅるるる、ちゅる、ちゅ――ちゅぽん。 ――首、いや、体の中から、何か細長い管のような物が抜け、結の口の中に収まった。血管に入り込んでいたはずのそれは、結の口の中で綺麗な人間の舌の形へと変化していた。 首から吹き出るはずの血は――私の中にはもう無いらしい。全て結が流し込んだ液体に変わってしまったようで、それが傷口を塞いでしまっていた。 もう、私は人間じゃない――不思議なことに私は、その事実に何の感傷も抱かなかった。いや、抱けなかった。だって――。 「――んぁ……ぁぁ……ゅ……ぃぃ……♪」 ――結。私の目の前で、私に向けて喜びの微笑みを浮かべている、結。結が、私を喜んでくれている。力もなく、仰向けに倒れ込んで、びくびくと体を震わせながら、ぼんやりした結の姿を見つめている私に向けて、心の底からの笑顔を見せてくれる。 それだけで、私の頬は暖かくなって、頭は興奮剤を分泌させ、全身の肌からは玉の汗を浮かべさせる。特に温かくなるのは、お臍の下、まだ誰も受け入れたことのない股間。そこがじくじくと疼いて、心臓と一緒にとくん、とくんと音を立てている。 何かが入ることを期待しているみたい……。何か……? 『本当に……りゆっちは素敵だよぉ……♪綺麗だしぃ……可愛らしいしぃ……優しいしぃ……♪それに……とっても美味しかったしぃ……♪ふふふ……ふふふふふ……♪』 嬉々として私への好意を語っていく結。その蛾の腹部が、ぴくん、ぴくんと蠢いている。その先端は、我慢できなかったかのようにぱくぱくと開閉し、とろりと粘っこくて温かい液体が私の足下に落ちていく。つつぅ――と、糸を引きながら、ゆっくりと。 『……こうやってぇ……ぽわぽわしてぇいるりゆっちを見てるとねぇ……♪うふふ……♪もっと……ずっと……深く、深く深く深く深く繋がっていたいんだ……んっ♪んぁ……♪』 ぐぐ、と結の蛾の腹部が折れ曲がる。外側の節が伸ばされ、内側の節が深くなるにつれ……開いた先端から、何かがずるり、ずるりと這い出ようとしている……。 ――ぐちゅる……ぢゅっ 『――んぁぅ……♪』 ――先端から現れたのは、四つの切れ目を持っている先端が窄まり、男性の持つアレというよりはどこか芋虫を思わせる、節が幾つも付いている、私の股間を押し広げてしまいそうな太さを持つ……輸卵管だった。 当然ながら、私は男性とは交わった事はないし、そんな相手もいないし、そもそもそんな事を思ったことすらない。けど……結の輸卵管を目にしたとき、私の中に浮かんだのは、確証とも言える直感だった。 ――きっと、あの管は、人間の男と交わる以上の快楽と快感、そして幸せを私に与えてくれるだろう……♪ 『はぁぁ……♪ぁはあぁ……♪りゆっちぃ……♪ひとつに……ひとつになろうよぉ……♪ねぇ……♪』 ぱさり、ぱさりと結の羽は震え、さらに濃密な鱗粉を私に向けて浴びせかけてくる。もう、結の顔さえ視認できなくなりそうだ。 でも――同時に、結の体の熱が、肌に伝わってくる。ほんのりと、まるで綿毛のように柔らかい結の温もりが、鱗粉を、空気を伝って私に伝えられていく……。 私の股間にも、結の体が――輸卵管が近付いてくるのが分かる。'それ'が脈打つ度に、私の陰唇ががじゅん、と潤み、誘いかけるようにうねるのが分かる。 鱗粉にまみれた顔に、結の熱い吐息が浴びせられていく。果物のような甘い吐息に、私の意識はさらに陶酔を深めていく……! 心臓が、期待に震える……酸素が足りなくなり、口を開く私に、空気と一緒に鱗粉が沢山流れ込んでくる……。 普通ならせき込むはずの私の喉は、何の拒否反応もなくそれを受け入れていく……。鱗粉が触れた場所から、じんじんと感覚が鈍くなっていくような感じがする。 それでいて、ぽわぽわと温かい感じすらして――気持ちいい……♪ 『はぁぁ……♪はぁぁ……♪りゆっちぃ……♪りゆっちぃぃぃ……♪』 私を押し倒しながら、結は私の口に唾液……ううん、さっき流し込んだ液体を垂らしていく。その液体は私の口の中、喉、食道へと、ゆっくり垂れ落ちて、い、く――!? 「――ぁ……」 ――ぐるん、と、何かが回転した気がした。体の内側にあったものが、外側へと痛みもなく反転していくような、そんな奇妙な感覚。 「――ぁぁあ……!」 ――膨張していくような感じがした。血管が、筋肉が、脂肪が、蛋白質が、皮膚が、全て一気に破裂してしまいそうな程にその体積を増していくような、その――! 「――ぁあ……あああ…… 、ああ、ああああ――!」 ――自然と私の瞳は見開かれ、口も大きく開かれて――! 「――ぁぁ、あ、ああ、ああああ、、、ああ、、ああ、あああ、、、あ、ああああああああああああああああああっ!」 あ、ああ、あああ、ああああ、あああ、あああああああああああ熱いっ!あついぃいいいいいいっいいいいいいいいっっ!のどがぁぁっ! 喉がくちが――んきゃあああああああああああああっ!血ぃっ!血がぁっ!血がふっとうしゅるうううううううううううっ!やけっ!やけちゃうううううっ! わらひ、わらひやけひゃうううううううううっっっっ! ――ぷしゅうううううっ! 「んああああああっ!あんあ!ああんあっ!あああああいあああああああああんあああ!」 いくぅぅっ!いっひゃあうううううっ!おまらぁ!おまらぁぁぁぁぁぁっあああああ!なんろも、なんろもいっひゃううぅぅぅぅぅっっっ! ――突然私の全身に巻き起こった、異様な熱……いや、最早爆発と言ってもいいかもしれない。沸騰してしまいそうになるほどの発熱、それは私の全身に張り巡らされた血管からいきなり発症した。 原因は、間違いなく結のあの液体。唾液のようなそれが、鱗粉ごと体の中に取り込まれたこと、それが発熱の火種になった。 もしかしたら、鱗粉がある程度の量体内に入ったから……巻き起こったのかもしれない。けど――私にそんな事を考える余裕も、頭も、今は存在しなかった。 ただ、体を灼く熱に翻弄されるだけ……♪ 『――ふふふ……りゆっちぃ……♪'準備'、出来たねぇ……はぁぁ……♪』 すっかりとろけきっている結は、半狂乱の私に何か言っているけども、当然私には認識できない。ただ音を捉えて、返すことしかできなかった。 「いぃいいっ!りゅんひぃ!りゅんひれひらのぉぉっっ!」 私の言葉に、鱗粉の向こうにいた結は……心の底からの笑みを浮かべた後、それをふにゃりと崩した――ような気がした。 『ふぁぁ……ふぁぁぁ……♪もう……もう限界だよぉ……♪りゆっちぃぃ……♪』 ぬた……ん。結の蛾の腹部から、私の燃え盛る秘所に向けて、ねっとりとした液体が落ちる。その柔らかで涼しげな感覚にびくん、と体を震わす私に向けて――。 『――受け取ってぇぇぇぇぇっ♪♪♪』 ――'それ'は振り下ろされ、私を一気に貫いた。 ――ずぢゅうううううううっ! 「――!?!?!? ――んぁああああ、あ、ああ、、、ああああああああああああああああああああああっ!!!!」 はぁ、はいっれ、い、あ、あああああっ!ゆいらぁっ!ゆいらはいっれくりゅうううううううううっ!じゅぼじゅぼっれぇぇぇっ! わ、わら、わらひのなかにはいっれくりゅううううっ! 『んぁああああああああっ♪♪りゆっちぃぃっ♪♪いいよぉっ♪りゆっちのなかいいいいいいいいっ♪』 くにゅくにゅしらのはわらひのなかほじほじしれぇっ!すれらほころきもひいいいいいいいっ!びくびくっれなりゅうぅぅぅぅっ! 『んぁあああっ♪♪もっとぉぉっ♪もっとしめつけてぇぇぇっ♪りゆっちぃぃぃっ♪もっとぉ、もっとぉぉぉっ♪♪』 私の膣は、結の輸卵管の持つあらゆる触感を、快感として脳に伝えていった。芋虫のようなぶにぶにとした触感に、筋肉の持つ不思議な弾力性。 産毛の持つサラサラ感に、ぬるぬるとした粘液の触感。それら全てを快感として、脳の中に叩き込んでいく。 既に私自身の愛液でこなれた陰唇に、結は容赦なく輸卵管を突っ込み、深く突き刺しては抜き取り、抜き取ってはさらに深く潜り込ませていく。 その動きに反応して、私の膣肉は輸卵管を挟み込んで、もっともっと感覚を味わおうとしている。 結の輸卵管が、私の奥へと突き入れられる度、節が私の肉襞を挟み込んで引っ張っていく。抜き取られるときにはそれが外側への動きに変わって、まるで子宮を引きずり出そうとしているかのような、 痛みにも似た快感が私をさらに高ぶらせていく。 『んぁあああっ♪♪りゆっちぃぃぃっ♪♪りゆっちぃぃぃぃぃぃっ♪♪』 「んぁああああああっ!!ゆぃいいいいいっ!ゆいぃぃぃぃぃいいいいいっ!」 互いに腰を打ち当てつつ、私と結は互いに名前を呼び合っていた。既に私を拘束する糸は、両腕両足を含めて全て解かれていた。二人を妨げる物は、もう何もない。 例えそれが、私の心だったとしても、だ。ぱちゅん、ぱちゅん、と不思議な音を立てながら、私は蛾の腹部に腰を打ち当てていく。体を自ら抉るように、私は結を全身で受け入れ、刻み込んでいく。 腰を打ち付ける度に、結は声をさらに高くしていく。私を、私で、感じてくれているんだ……そう思うだけで、私の全身はまた燃え盛るような熱を帯びて、腰の動きを激しくし、微風だけで感じそうな程に感度を上昇させていく――! 『ふぁああっ♪♪ふぁああああっ♪♪ひぁあ♪あぁ♪ああああ♪♪』 「あぁあああああんああっ!んぁああああんあんああああんっ!」 どっくっ!どっくっ!既に私と結の心臓の音は同時に鳴り響いていて、結が速くなれば私も、私が速くなれば結もと、互いが互いにシンクロし合っていた。 一気に引き抜くように腰を引いたと思うと、距離を詰めるように腰を打ち付け、また引く。 そのタイミング、一挙手一投足が、体こそ違えシンメトリーになっていた。だからこそ――私も感じたんだ。 ――ど ぐ ん っ ! 『「――!!!!!!!!!」』 結の体がびくん、と跳ねるのと同時に、蛾の腹部の根元が、ぼこり、と膨らんだ。 同時に、結の蛾の腹部の先端が、私の子宮の中に突き入れられ――ぐぱぁ、とその先端を大きく花開かせた! 『――んぁあ、あ、ああ、あああ、ああああああああっ♪♪』 「――ふぁあっ!?あぁああ、ああ――ああああ!!」 ぐぷん……ぐぷんとその腹部全体で収縮と膨張を繰り返しながら、膨らみを先端へと移動させていく結。中身の移動は、それが続く間ずっと快感を与えているらしい。 一方の私も、蛾の腹部の先端が、私の子宮と結を直結し、繋がったまま固定するように開いたことで、本来触れられるはずのない場所から感じる刺激――快感に、ただただ叫んで悶えることしか出来なかった。 蠕動を繰り返しながら、中の物を近付けていく結。その表情に私のことを慮る余裕はなかった。そしてそれは、私も同じ。 ただただ、体から生じる快楽を声にして、それを互いに分け与えて、同時に味わっているだけ――! 『んあぁあああっ♪♪あぁああああああっ♪♪りゆっちぃぃぃっ♪♪りゅっちぃいいっっ♪♪』 「あぁあああんああっ♪♪あっあああっ♪♪ゆいぃいいいっ♪♪ゆぅぃいいいいいいっっ♪♪」 お互いに高みに昇っていく、その中で――! ――ぐぽんっ……ご ぷ ぅ ぅ ぅ っ ! 『「――!?!?!?!?――んあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ♪♪♪♪♪♪♪」』 ――'それ'は私の子宮へと一気に流し込まれ、同時に温かく、柔らかな液体も、私の中に流し込まれていった。 同時に達した私達は、そのまま重なり合った状態で、お互いの顔を見合わせる。結のほわほわした触覚が、私の頭にぺたん、と貼り付いた。それだけで、私は気持ちよくて、何となく笑顔になってしまう。 ――ぐぷっっ……ぷしゃあっ…… 「――ん……ぁぁ……♪」 蛾の腹部が、私の中から抜けると同時に、結の股間から、ねばねばした暖かな液体が私の股間に掛けられる。しばらくすると、そこには白い膜が出来ていた。多分、子宮の中に産みつけられた――卵が、外に出ないようにするための物だろう。 『ふふふ……♪♪りゆっちぃ……♪♪』 心底嬉しそうに結は、抱きついて私のお腹をさすり、パタパタと鱗粉をまき散らしながら、私の耳元でこう告げたのだった。 『……これで……りゆっちも一緒だよ……♪』 「――いっ……しょ……♪えへ……へぇ……♪♪」 とくん、とくんと音が響く、私の体の中の卵。それが放つ温もりに、私は目を細めた。結が話す『一緒』が、とても素敵なことに思えた私は……。 「……ゆいぃ……らぁい……しゅきぃ……♪」 ……結への好意の一言と同時に、意識を光の中に消えさせたのだった。 -------------------------------------------------------------------------------- ――璃由が、結の目の前で快楽と安穏と温もりの夢に浸りながら、その意志を閉じた事を確認すると、結はその甲殻と絨毛に覆われた手に開いた穴から、ふしゅっ、ふしゅっと糸を吐き出し始めた。吐き出された糸は、周りの鱗粉によってコーティングされながら、柔らかく璃由の体を覆っていく。 「ん……やぁ……ぅ……♪」 肌に触れるサラサラした感触がむずむずするのか、いやいやするように左右に動く璃由。その動きは、まるでひっくり返されてうぞうぞと動く蚕の幼虫のようであった。 その姿が、白い糸の下に段々と隠れていく。糸越しに影のようになった彼女の動きが、次第にゆっくりになっていく……。 『あ〜み〜も〜の〜し〜ま〜しょ♪』 しゅうっ……しゅるるるぅっ……♪全てが、覆われていく。まっさらに、白に、純白の糸に……。そして塗りつぶされていく……。 ――ふしゅっ……♪ 結が手を翳すことを止めたとき、そこにあるのは、璃由だった人間を包み込んだ、純白の繭だった。 横たわり、とくん、とくんと、寝息のような脈を部屋に響かせて……。 『深く……ゆっくりおやすみ……♪りゆっちぃ……♪ ……ふふふ……♪ ……"ここ"は繭の中……誰もが安らかな気持ちになれる場所……♪』 結は、その繭に抱きつきながら、まるで子供をあやすようなリズムで、繭の中の璃由に語りかけるのだった……。 -------------------------------------------------------------------------------- 「――関東地区に巨大な繭が発生やと!?関東支部の対魔協会はどないしたん!?」 『それが、連絡が全く取れなくなっております!西関東も、東関東も!』 「だぁほ!また東西で内部抗争しとんのかい!ゆーか関東所属のA級討魔師の小車泰音(こぐるまやすね)はどないしたん!あいつ、鎮圧に当たらんかったんか!?」 『現在両支部から任務と強制的な休暇を与えられ、今はオリンポス山です!』 「あの腐れ狸どもが……今度会うたら軍法会議にかけちゃる!もう首にしたれや!本部!あぁもぅしゃあない!増援送るわ!あんさんは現状の発生規模確認してウチと北の方に送りぃや!」 『了解しました!』 「……もしもし、大神か?ワシや。……何や、覚悟出来とるような声やな。ん?ワシが電話する時点でただ事やないと思うとるって?思うとるんなら話は早いわ。実際ただ事やあれへん。 ――ちぃと、関東に行ってくれへんか?勿論、嬢ちゃんと一緒や」 -------------------------------------------------------------------------------- 結を襲った蚕蛾憑神は、その日が来る前から……いや、その日のために周到な準備を重ねていた。切っ掛けは、新人討魔師の撃退及び憑神変化。その折に大量の魔力を吸収し、一気に力を増した憑神は、彼女を協会へのスパイとして忍ばせつつ、自身は次々と人々を憑神へと変化させていった。 変化させた憑神に知能を与え、属する組織、近所、そして家族をそれと知られぬ間に巻き込み、協会に知られないようじわりじわりと変化させていく。 同時に、協会で当時起こっていた内部不和を利用し、有力討魔師を外部へと移動させていった。 そして――空間を繭で覆う。これによりこの地は外部との接触が不可能になり、充満した魔力は憑神達を生む栄養となる。 ――'その日'……繭で覆われたその日に、彼女達は人の皮を破り、蚕の憑神として、繭の中に残った人々を手に掛けていったのだった。 全ては、自身のコロニーの拡大のため。そして憑神繁殖のために彼女が仕組んだ物だった。そしてそれは――全て彼女の思い通りにいったのだった。 そして――彼女は次の一手を打つ。それは、繭の中で育つ蚕蛾憑神を、各地に飛ばす計画である。 それを邪魔するかのように、各地から討魔師が集結しつつあったが、彼女に焦りはなかった。 いや、寧ろこの状況を楽しんですらいた。 『フフフ……♪孵ルノガ先カ、滅ブノガ先カ……アハハハハハハハハ♪♪』 彼女の視線の先、そこには全てが糸に覆われた、関東支部の片割れがあった……。 fin? 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