〜憑神事変〜
作:十二屋月蝕様
最期の願いと望みと欲と

町の地下、下水道から枝分かれして広がる大きなトンネルの中に、いくつもの影が転がっていた。
それは、黒い光沢のある甲殻で身を覆った人間のようだったが、いずれも体のどこかに大きなへこみやひび割れ、あるいは焼けた痕がついていた。
最新鋭の技術により生み出されたボディーアーマーで武装しているように見えるが、よくよく目を凝らせば、いずれも足か腕が一対多く、腰と尻の継ぎ目のあたりに黒い楕円形の付属物があるのに気が付くだろう。
そして、転がっている者たちの全ての顔が全く同じ女性の顔であることにも気がつくだろう。
累々と異形たちが横たわる回廊を進んでいけば、数度の曲がり角と上昇と下降を繰り返し、開けた場所に出る。
そこにも同様に、蟻を思わせる体つきの異形が何体も転がっていたが、違う点が一つだけあった。
立っている者がいるのだ。
一つは回廊に転がっていた者たちと全く同じ顔で、黒い甲殻で身を覆った異形。しかしその身の丈は人間の三倍ほどはあり、腰と尻の継ぎ目にあった楕円形の付属物は本体の倍ほどの大きさに膨れ上がっていた。
そして、もう一つの影はその巨大な異形と対峙するように立っていた。巫女装束に身を包み、錫杖を手にした髪の長い少女だ。右手に握った錫杖を牽制するように構え、左手の指の間に数枚の札を挟んでいる。
すでに数度の攻防を繰り返したのか、少女の巫女装束には細いほつれや破れが付いており、巨大な異形もその甲殻にいくらかヒビを帯びていた。
一人と一体は、にらみ合いながらゆっくりと動いた。
異形が細く長い腕の先についた爪を広げ、少女が札を握った左手を引き絞った。
直後、一人と一体が動く。
異形が巨大な腹を引きずりながら距離を詰め、腰をかがめつつ掲げた右腕を振り下ろした。巨大な腹を抱えているのも関わらずその動きは俊敏で、姿と相まって獲物に躍りかかる肉食昆虫のようだった。
だが少女はただぼんやりと立っていたわけではなかった。
異形が足を踏み出した瞬間に地面を蹴って退き、振り下ろされる巨大な手のひらに向けて握っていた札の内の一枚を投げつけたのだ。
異形の鋭い爪が最前まで彼女のいた地面を深々と抉り、少女の放った札が黒く光沢を帯びた手の甲に貼り付く。
異形が空振りになった腕を引き戻し、次の一撃を放とうと振り上げると、札に描かれた文字と模様が光を帯び、文字通り一気に燃え上がった。そして、札の中に封じ込められていた爆風が解放される。
「ッッッッッッァァァァァ!!!」
手の甲に生じた爆風に、右手を砕かれた異形が叫びを上げる。
ほぼ人間の可聴域の外の音で構成された絶叫には苦痛が滲んでいたが、少女はそれに頬を緩めることも、顔をしかめることもなく、地面を蹴り異形の右側へ回り込んでいった。
激痛に歪む異形の相貌が少女の姿をとらえ、がら空きの右側を庇おうと向きを変えるため、足を動かす。
異形が足を上げた瞬間、少女が握っていた札の一枚を再び投擲した。一直線に飛んで行った札が異形の右足に貼りつき、描かれた文字が淡い光を帯びる。
直後、異形が左足を踏み下ろし、札の貼りついた足を上げようとした。しかし、足は異形が力を込めたにもかかわらず、文字通り釘づけにされたかのようにピクリとも動かなかった。足を上げるために力の籠っていた全身がバランスを崩し、転倒する。
「ッッッ!?」
可聴域外の困惑混じりの悲鳴を上げる異形に、少女は札を投げ、貼り付けて回った。
一枚一枚が異形の甲殻に貼りつき、淡い光を帯びて異形の腕を、足を封じていく。手元の札がなくなれば、巫女装束の懐から新たに取り出し、貼り付けて行く。
そして、彼女が異形の周りをぐるりと一周するころには、異形の全身はおろか尻と腰の間にくっついた巨大な楕円形にまで札が貼りついていた。
一枚一枚が淡い光を放ち、異形の巨躯を縛っていた。
「こんなもん、かなあ…?」
犬笛の音にも似た、威嚇の唸り声を上げる異形を見ながら、少女はそう呟いた。
「まったく、腹ぶち破ったら子アリがゾロゾロなんてめんどくさすぎや」
事前の調査により、大量の卵と子を抱え込んでいるとわかった巨大な異形の『腹部』を見ながら、彼女は続けた。体躯の割にそこまで強くはなかったのだが、そのような背景があったため、このような面倒な手法を取ることになったのだ。
「さ、仕上げせんと」
札により完全に封じられた異形の手から腕へ、腕から肩へと彼女が跳躍を繰り返す。
そして、肩の上に降り立つと、彼女は懐から一枚札を取りだした。模様や並ぶ文字こそ、最初に異形の右手を砕いた札に似ているが、微妙に違う札だ。
少女はその札を異形のうなじを覆う甲殻へ貼り付けた。札が淡い光を放ち、直後炸裂する。
ごくごく小さな爆発だったが、甲殻にひびを入れるには十分な衝撃だった。
「ッッッェゥッッ!」
衝撃と痛みに異形が声を漏らすが、全身を縛る札の効果により身じろぎ一つしなかった。
「これで、仕舞や」
彼女は両手に錫杖を握ると、甲殻のひび割れめがけてその石突を叩きこんだ。
何かが砕け、引き裂かれ、断ち切っていく感触が彼女の掌に伝わった。


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(いやだいやだいやだ死にたくない)
それは望んだ。己を形作った人の心に基づいて。
(もっと増えたいもっと作りたいもっともっともっと)
それは欲した。己の核となった昆虫の本能に基づいて。
(死にたくない増えたい逃げたい強くなりたい)
それは願った。己自身の意思と本能の底から。
(生きてもっと強くなりたい)
願いは叶った。




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「うむ…そうか…分かった…。美影君、蟻憑神の償却が完全に終了したそうだ」
絨毯の敷かれた一室で壮年の男が電話を切ると、革張りのソファに腰掛けガラス展版のテーブルを挟みながら、向かいに腰掛ける少女にそう言った。
「君の活躍と協力により、あの蟻憑神からの爆発的増殖を完全に防ぐことができた。本当に御苦労だった」
「いえいえ、私だけの成果じゃありません。調査とアドバイスがなかったら、普通に腹破って子アリばらまいてました」
革張りのソファに腰掛ける巫女装束の少女、鈴華美影はそう謙遜の言葉を返した。
「そう謙遜しないでくれたまえ。君がいなければそもそも我々には何もできなかったのだからな…それでは、お礼はいつもの通り振り込んでおこう」
「ありがとうございますう」
美影はそう応えるとソファから立ち上がり、軽く頭を下げた。
「これからもよろしく頼むよ、鈴華君」
「はい、任せとって下さい!」
立ち上がって肩を叩いた男に、美影は笑顔で応じた。
「それじゃあ玄関まで見送ろう」
「はい」
男は応接セットから離れると、部屋の出入り口に歩み寄り、ドアを押し開いた。
美影は絨毯の上を進み、彼の開いてくれたドアから出ようとした。
だが、リノリウム張りの床に踏み下ろした足が完全に体重を支える前に、がくんとひざが曲がった。
「っ!」
転倒しそうになりつつも、彼女はどうにか踏みとどまった。
「だ、大丈夫かね、鈴華君!?」
「は、はあ」
一瞬何が起こったのか、いまだ理解しかねた様子で彼女が目を白黒させながら声を漏らした。
「どうやら、かなり疲れているようだね」
「え、ええ…あんまり疲れている気はせんのですけど…」
突然力が抜けた足を持ち上げ、膝を曲げ伸ばししてみるが問題無く動く。
「若いからと言ってあまり無理をしてはいかんよ。年を取ってからツケを払うことになるからね。今日のところはウチの者に送らせよう」
「す、すみません、ありがとうございます…」
美影は彼の言葉に従い、送ってもらうことにした。
彼の言うとおり、自分で思っている以上に疲労しているようだったからだ。




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下水道から枝分かれして伸びる回廊を、一つの影が進んでいた。
両手とひざを地面につき、顔面を地面に押し付けるようにしながら這い進んでいる。
それの進む回廊には、何かが転がっていた跡や、何かが争ったような痕が残っていた。
それもそのはず。この回廊はつい十数時間前まで蟻型の憑神の巣で、ほんの先ほどまで彼らの骸が転がっていたのだ。
だが、憑神は討伐され、遺骸も全て警察の手によって回収されており、ここには痕跡と立ち入り禁止の印以外何も残されていない。
少なくともそのはずだった。
「美影くんの足跡ぺろぺろ、美影くんの足跡ぺろぺろ」
だが、それの口から時折漏れる言葉を聞く限り、それにとっては何も無い訳ではないようだった。
「美影くんの足跡ぺろぺろ、美影くんの足跡ぺろぺろ」
異様に明瞭なその言葉を繰り返しながら、それは回廊を這いまわり、顔面を地面に擦りつけながら進んでいく。
前に進み、右に曲がり、左に曲がり、たまに後退する。それは奇しくも、数時間前にこの回廊洞穴の住人を殲滅した少女の足取りと、完全に同じだった。
やがてそれは回廊を通り抜け、地の底に作られた大広間へと出た。
蟻と人の合わさった異形が鎮座していたその場所には、いくらかの戦闘の痕跡と焼け焦げ、そして微量の灰だけが取り残されていた。
土にはいくつもの足跡が折り重なっていたが、ここまで足跡を文字通り辿ってきた彼にとっては、ここは宝の山なのだろう。
「美影くんの足跡ぺろぺろ、美影くんの足跡ぺろぺろ」
回廊から大広間へとつながる穴をくぐりながら、それが姿を現す。
そして、数歩分の足跡を辿ったところで、ぴたりと動きを止めた。
「…………?」
足跡から顔を上げたそれが、首を巡らせて大広間をぐるりと一望した。
隅から隅まで、空中に舞う何かを一つ一つ精査していくようだった。
「美影くん、一人。憑神、一匹。雑魚、たくさん」
そう呟くと、四つん這いのまま持ち上げた顔をぐるりと背後へ回しながら、それは続けた。
「妖魔が一匹、出て行った」


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美影は、浴槽の中で伸びをした。
身体を包む湯が、戦闘によって強張り禊によって冷え切った体に、温もりを染み込ませる。
憑神や妖魔との戦闘後の至福のひと時は、彼女の人生の楽しみの一つである。
「あ゛ぁぁぁぁぁ〜〜〜〜…」
一通り全身を反り繰り返らせて緊張を解くと、彼女は身体の奥底から吐息を漏らした。
少女にあるまじき濁点付きの声は、体内に溜まっていた疲労が音を立てて出ていくかのようだった。
やはり、知らず知らずのうちに疲労が溜まっていたのだろうか。
「もーちっと、養生せんとなぁ…」
湯気に霞む浴室の天井を見上げながら、彼女はそう呟いた。
今日は早く寝るとしよう。
そう決心すると、彼女は伸ばしていた足を曲げて湯船の底に足裏を付け、立ち上がろうとした。
しかし、少しだけ尻が湯船の底から浮いた瞬間、僅かに上昇していたはずの彼女の視界が突然下がり、直後尻への衝撃とともに湯が飛び散った。
「わぶっ!?」
勢いよく飛び散った湯が顔にかかり、思わず声を上げる。
「な、なんやの!?」
思わず顔をぬぐいながら声を上げるが、すぐに彼女は原因に思い至った。突然足の力が萎え、その場に尻もちをついてしまったのだ。
やはり、かなりの疲労が溜まっているのだろうか?それとも…
「……」
彼女は湯船の縁をしっかり掴むと、両手両足に力を込めてゆっくりと立ち上がった。
身体に絡み付いていた湯が、ざばりと音を立てて玉のような肌を流れ落ち、上気した肌を暖かな浴室の空気に晒す。
美影はそのまま湯船から出ると、浴室の壁に設置された姿見にその裸身を映した。
ほっそりとしたというと聞こえはいいが、実の所起伏の乏しい体つきをした少女が、そこに映っていた。
細いながらもしなやかな二本の脚が、やや小ぶりの尻へと繋がり、尻から腰、腰から少しだけ締まった腹へと滑らかなラインを描いている。
視線を上に向ければ、僅かに肋骨の浮かんだわき腹からかなり控えめな胸へと続き、腕と肩と胴を浮かび上がった鎖骨が繋いでいる。
そして細く白い首が小さな顔を支え、まとめ上げられた黒い髪の下に並ぶ二つの目が、鏡の向こうから彼女を見つめていた。
上から下まで視線を巡らせるが、何の異常もない。
だが、一瞥した程度ではまだ分からない。
「念には念を、や」
そう呟くと、鏡の曇りを拭って、彼女は目を凝らした。
白い肌はいつものようにすべすべとしており、湯船につかっていた時の温もりの残滓と浴室の湿気により少しだけ上気し、玉のような汗が浮いている。
その場で身を反転させて背中を見てみるが、大きすぎない小ぶりの尻から、腰、背中へと続く背筋の筋も薄く濡れているほかに問題は無い。
身体のねじりを解き、再び鏡に対して正面に向き直る。
桜色の唇に、上気した白い頬。
薄桃色の両の乳首に、縦長に引き延ばされた臍。
臍を中心とする親指と人差し指ほどの大きさの黒く丸い模様と、そこから左右に伸びる三対の直線。
円の上部に隣接する縦長の楕円と、円の下部に隣接する小さな三角形が二つ生えたやや小さめの楕円。
下腹を覆う柔らかで小さな茂みに、閉じた太ももと下腹の描く三角形の穴。
「んー、気のせいやったかな…」
顔も胸も腹も下腹も、腹に浮かぶ頭を下にしたアリのような模様も、何の問題もないと彼女は確認した。
「疲れとるだけやな。たっぷり栄養とって、ゆっくり休むわ」
鏡に映る細身の少女の姿を見ながら、彼女はそう呟いた。
もう少し栄養を取るべきなのだ。美影はタオルに手を伸ばすと、風呂から上がるべく身体を拭い始めた。


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願いは叶えられた。
望みは叶えられた。
欲と願は望みのままに。


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翌日、美影は布団から出ると、全身を満たす倦怠感と無力感にため息をついた。
「はあ…」
寝室からの移動も気だるく、上げ下ろしする腕には力がこもらない。
指を曲げて拳を握るが、綿でも握っているかのように心もとない。
あれほどしっかり眠ったというのに、疲労は抜けるどころかますます彼女の身体を侵していた。
「何でやろう…」
全身の倦怠感に、美影は首を傾げた。
ここ数日、とくに妙なものを口にした覚えはないし、妖魔や憑神との戦闘で何かされた記憶もない。
単純に疲れがたまっているだけなのだろうか?
「分からんなあ…」
原因を探るが、思い当たる節がない。とりあえず今日もゆっくり休んで、明日もこの調子なら病院にでも行こうか。
そんなことを考えながら、彼女は衣服を着替えることにした。
寝間着を脱ぎ、シャツを身につけようと手に取ったところで、ふと姿見に下着の身を身に付けた彼女の痩身が映っているのに気が付く。
昨夜浴室でも見た自分の身体だが、彼女は手を止めてまじまじと見てみた。
自他共に認めるスレンダーな体つきだが、少々痩せすぎではないのだろうか?
そんな思いが、ふと彼女の胸中に湧き起る。
両の脚は閉じても隙間が開くほどだし、蟻の模様と肋骨が浮かぶ腹から脇腹にかけても、締まっているを通り越しているのかもしれない。
胸を素通りして顔に目を向けてみれば、細面の少女と目が合う。
もしかしたら、これは痩せているのではなく、やつれているのではないのだろうか。
一度沸き起こった思いは、疑念へと膨れ上がり確信へと熟成されていく。
「んー、やっぱり栄養が足りんのかなあ…」
普段から割とよく食べる方だと自認しているのだが、妖魔や憑神の退治の運動量には足りないのだろうか。
「もーちょっと、料理多く作ろうかな」
止めていた着替えを再開させながら、彼女は呟いた。
最近の妖魔討伐の報酬なら、少々食費を増やしたところで問題はないだろう。
ここ数日の収支を思い浮かべつつ、彼女は近所のスーパーのチラシの内容を思い出そうとした。
しかし、脳裏に浮かんだのは安売り広告の文字などではなく、頭蓋の裏を引っ掻くような違和感と不快感だった。
妖魔や憑神が発する、不快な魔力の気配だ。
「妖魔や…!」
美影は感じ取った魔力から、魔力の主の種類と強さを大雑把に推し量ると、手早く着替えて退魔道具を一式手に取り、住まいの神社を飛び出した。
道を駆け抜け、角を曲がり、膨れ上がりつつある妖魔の気配へ突き進む。
妖魔の気配は、人家の間に取り残された、数十坪程度の雑木林の中から発せられていた。
人目につかない分、戦うには都合がいい。
彼女は雑木林を囲む背の低い金網を、一足跳びで乗り越えて、雑木林の中に入った。
もはや目を閉じてもその源が分かるほど、魔力の源と彼女の距離は狭まっている。
美影は手にした錫杖を握り直しながら、立ち並ぶ木々の間に目を向け、耳を向け、気を向けながら、気配を探った。
程なく、魔力の源である妖魔が木々の間に蹲っているのに気が付いた。
「ぎぢぎぢぎぢぎぢぎぢ…」
身を隠すようにして転がっていたそれが、声のような音を漏らす。
それは、蛇だった。
人の背丈ほどはあろうかという、真っ黒な鱗でその体表面を覆った蛇が、とぐろを巻くわけでもなく転がっていた。
無理もない。蛇の銅はパンパンに膨れ上がり、丸太のような体に頭と尻尾がようやくくっ付いているような状態なのだ。
大きさと形から考えるに、蛇の中に入っているのはおそらく人。
これが現実の蛇ならば、得物の骨を砕いてから飲み込むため犠牲者の命は絶望的である。だが、なぜか蛇型の妖魔は獲物を生きたまま丸呑みにする性質があるため、急いで妖魔を滅すれば救出できる可能性がある。
幸い、この妖魔は食事をしたばかりのようで、碌に身動きが取れそうになかった。
身動きが取れず、獲物からの魔力の吸収も不十分。狙うなら、今だ。
「っせいっ!」
裂帛の気とともに、彼女は踏み込みつつ錫杖の石突を蛇の頭に向けて繰り出した。
丸くはあるものの、金属の石突が一流の拳闘士の拳のごとき速度と鋭さで、真っ黒な鱗に覆われた蛇の額に迫る。
だが、石突が鱗を穿つ直前、蛇が大きく膨れた体を捩り、ごろごろと転がって突きを避けた。
直後錫杖が柔らかな地面を抉る。
「ちぃ…!」
一撃で仕留められなかったという口惜しさと、やはりそれほど甘くなかったという納得の念が籠った吐息が、美影の歯の間から漏れ出る。
見やると、蛇は木々の間を転がりながら移動し、美影の視界から逃れようとしていた。
少しでも獲物を消化吸収する時間を稼ぐつもりだろう。
「逃がさんでっ!」
懐から札を一枚取り出すと、彼女は勢いよく投げた。
ただの紙切れのはずの札が一直線に飛び、蛇の上を通り過ぎて、その向こうの樹木に貼りつく。すると札に描かれた文字と紋様が光り、一気に燃え上がった。
一瞬の後、衝撃波が樹木とあたりの空気を打ち据え、幹を砕き折った。
人の銅ほどの太さの樹木が傾き、蛇の行く手を遮るように倒れる。
蛇は傾いできた樹木に転がるのを止めると、一瞬の間をおいて別の方向へ転がり始めた。
「逃がさんて、言うてるやろ!」
美影の手から札が二枚、三枚と放たれ、樹木を爆折して蛇の行く手を遮っていく。
程なくして、雑木林の真ん中に木々が倒れて出来た広場が生まれた。
「さあて、堪忍しいや…」
完全に逃げ場を封じ込まれ、木々のどこから逃げ出そうと転げまわる蛇に向けて、美影は極力焦りを抑えた声で言った。
蛇に犠牲者が飲まれてどれほど経過したか分からないが、今救出すればまだ間に合うはず。
犠牲者のためにも、無駄にあせってその隙を突かれるようなことがあってはならない。
内心の焦りを抑え込みつつ、彼女は錫杖を握る指に力を込めた。
「ぎぢぎぢぎぢぎぢ」
一歩踏み出した美影に、蛇が動きを止めて再び音を立てる。
「お、堪忍したか。いい心がけやない…」
しかし、彼女の言葉は不意に断ち切られた。
蛇の方から、バリバリと何かが引き裂かれる音が響いたからだ。
彼女の目の前で蛇の胴を覆う鱗が裂け、鮮やかな桃色の肉が露わになる。
直後、鱗の裂け目から肉が盛り上がり、細く伸びて枝分かれを繰り返し『足』を形作った。二対四本の細い足だ。その鮮やかな桃色の表面が黒ずみ、鱗が生え揃って行く。
蛇は作ったばかりの足で体を持ち上げた。
「ぎぢぎぢ」
蛇は一声音を立てると、足でガサガサと地面をひっかきながら、辺りを囲む倒木に突き進む。
「あかんっ!」
美影が声を上げるが、蛇は止まることなくその針金のように細い足をたわめ、跳躍し、倒木の上を飛び越えて行った。
どさり、と倒木の向こうに着地すると、そのままガサガサと雑木林の外へ向けて走り去る。
「待たんかいっ!」
一声叫ぶと、彼女は懐から取り出した札を投げ放った。
札が木の幹に貼りつき、封じられていた爆風を放つ。
木の幹が折れ砕け、蛇の行く手を遮るべく音を立てながら倒れて行く。
しかし蛇は一気に加速すると、狭まりつつある木の幹と地面の隙間に滑り込み、駆け抜けて行った。
「くっ」
これ以上札を投げても、蛇を止めることはできない。彼女は判断を下すと、握っていた札を懐へ突っ込み、駆け出した。
軽い跳躍と共に倒木を飛び越え、数度地面を蹴って蛇の後を追う。
とはいってもごくごくせまい雑木林なので、蛇と美影はすぐに木々の間から飛び出した。
蛇の足の先端に生え揃った爪がアスファルトをとらえ、美影の靴が道路を突く。
ガサガサガサという耳障りな音と、タンッタンッという間断した跳躍音。
二つの音が、蛇と美影の間に響く。
(早いところ仕留めんと…)
美影は胸中で呟きつつ、懐に手を差し入れ札を出した。爆発を封じた札ではなく、蟻憑神にも使った動きを封じる術符だ。
腹の中に犠牲者がいる以上、一時的に動きを封じ込めて頭を砕くのが一番だと彼女は判断した。
しかし、蛇と彼女の距離は微妙に開いており、札を投げても蛇が左右に避ければ外れそうであった。
距離を詰めようにも彼我の早さはひっ迫しており、縮まりそうになかった。
だがこうして追いかけっこをしている間にも、蛇の腹は少しずつ収縮しており、犠牲者が消化吸収されて蛇の魔力になりつつあることが分かる。
このまま追いかけっこを続けて蛇の魔力を膨れ上がらせるか、犠牲者の救助をあきらめて丸ごと爆破するか。
彼女が逡巡した瞬間、蛇ががりがりと地面をひっかきながら方向を変え、脇道へ飛び込んで行った。
「っとぉ!」
滑り転がりそうになるのをどうにか踏みとどまり、蛇の飛び込んで行った脇道へ入る。
すると脇道の向こうの方に、学生服に身を包み通学カバンとスポーツバッグを提げた少年が立っていた。
少年は突然飛び込んできた蛇のような生き物と、巫女装束の少女に目を見開いて立ち尽くしていた。
だが、蛇は少年の驚きも意に介さず、大きく口を開きながら彼に迫った。
よく見てみれば、身動きが出来ないほど膨れていた腹は大分細くなっており、小柄な人物程度なら丸のみにできそうだった。
そう、目の前の少年程度なら。
「っちぇぁぁぁあああああっ!」
美影は一際強く地面を蹴り、一気に加速して蛇を追い越すと、少年に覆いかぶさるようにしながら押し倒した。
少年の背中がアスファルトの地面にぶつかり、彼の口から息が漏れる。
直後、耳障りな蛇の足音が途切れ、美影の背中の上を何かが通り過ぎていった。
「ぎぢぎぢぎぢ!」
蛇は美影たちの前方に着地すると、音を立てながら走り去って行った。
どうやら、本気で少年を襲うつもりではなかったようだ。
「だ、大丈夫!?頭とかぶつけへんかった!?」
蛇の行き先も気になるが、勢いで思い切り倒してしまった少年の安否を、身を起こしながら確認する。
「だ、大丈夫です…」
足の生えた蛇と巫女さんが現れ、突然巫女さんに押し倒されるという状況に意識が追い付いていないながらも、少年は頷きながらそう応えた。
すると、不意に自分がどういう姿勢なのか気がついたらしく、彼の頬に朱が差した。
「うん、よし。とりあえず後で病院に行って、何かあったら鈴華神社に来てな」
彼女はそう告げると、蛇が走り去って行った方向へ向けて駆け出そうとした。
しかし、不意に地面を蹴るはずだった足が萎え、彼女のバランスを崩した。
「あっ…!」
傾く体と迫る地面に、美影の口から低い声が漏れる。直後彼女の前面を衝撃が襲った。
「つつ、痛ぅ…!」
受け身を取るため地面に打ちつけた手をさすりながら、彼女は身を起こした。
と、その時手をさする自身の指に、彼女は違和感を覚える。そして、出来れば違和感が気のせいであってほしいという願いを込めながら、彼女は両手の指を握り、開いた。
「あかん…またや…」
指を支配する無力感。
今朝方彼女の手を支配していた症状だった。
考えてみれば当たり前だ。今朝症状が出て、栄養不足だと判断したというのに、朝食も摂らずに走り回っていたのだ。
一時的に無力感が消えても、食事で栄養補給したわけではないので、いつ症状が出てもおかしくない状況だ。戦闘中ではなかっただけ、運が良かったと思うべきか。
(いや、まだアイツが逃げとる…!)
距離が離れるに連れ、少しずつ小さくなっていく蛇の魔力の感覚に、彼女は頭をふった。
どうにかして症状を押さえ込むか、大急ぎで栄養補給をして奴を追わなければいけない。
無論、美影は症状の押さえ込み方は知らないので、自然と解決方法は栄養の補給しかなくなる。
だが、この近所に飲食店やコンビニはあっただろうか?
美影は必死に記憶をたどるが、候補は上がらない。
「あの…大丈夫ですか…?」
いきなり倒れ、座り込んだままの美影を心配したのか、少年が声を掛けた。
「ああ、大丈夫やけど…」
ふと、彼女の頭にこの状況に対する解決策が浮かんだ。
何を悩んでいたのだろう、ここに少年がいるではないか。
彼女は、焦りのあまりごく単純なことにも気が付かなかった数秒前の自身に苦笑しながら、少年に顔を向けた。
「なあ君、ここらに…」
問いかけようと言葉を紡いだ瞬間、彼女の腹に微かな熱が宿り、何かがもぞりと動いた。
「っ…!?」
「あの…本当に大丈夫ですか…?」
不意に口をつぐんだ美影に、少年が心底心配した様子で問いかけながら屈んだ。
そして介抱しようと彼女の肩に手を伸ばし、一瞬の逡巡を経てから美影に触れた。
その瞬間、美影の身体がびくんと跳ね上がり、身を屈めていた少年に覆いかぶさった。
「うわっ…!?」
少年が声を上げるが、彼女は仰向けになった彼の上に跨った。
そして、ようやく彼女は自分が何をしたかに気が付いた。
(あれ?ウチ、何してんのやろ…)
再び押し倒されたことで、混乱した様子の少年を見下ろしながら彼女は胸中で自問した。
しかしすぐに答えに行きつく。そう、栄養補給をしようとしていたのだ。
よくよく考えてみれば、今から何か食べたところで、消化吸収されるのは大分時間が経ってからだ。
ならば手っ取り早く妖魔のように精気を直接摂取すれば、余計な手間を挟まずに症状を解消することができるだろう。
腹に生じる熱と疼きから美影はそう解釈すると、少年に向けて軽く微笑んだ。
実に淫靡な笑みだった。
「ちょっと手伝ってなあ…」
唇を軽く舐めてからそう告げると、彼女は腰の位置を調整し、少年の腰の上に座りなおした。
巫女装束の少女に跨られているという状況からか、少年のズボンの下から固い何かが、美影の両足の付け根を押し上げていた。
「んふふ…」
若さあふれる少年の肉体と、そこから得られるであろう世紀に彼女は笑みを一層深めると、装束の前を開いた。
下着に覆われた控えめな胸から、下腹部までが露になる。
少年の視線が、僅かに紅潮した顔からほっそりとした首筋を辿り、胸、鳩尾、と続いて下腹の上部、臍の辺りで止まった。
臍を中心に浮かび上がる、頭を下にしたアリの形の紋様に目が釘付けになっているのだ。
「んもう、あんまジロジロ見るんやない」
いくらかの恥じらいを含んだセリフを口にしながら、美影はくすくすと笑い、腰をぐるりと大きく回した。
それに合わせて、下着とズボン越しに彼女の太ももに食い込む固い物が動く。
「あうっ…!」
股間を襲った柔らかい刺激に、少年が低い声を漏らし、屹立をびくびくと脈動させた。
少年の年相応な初々しい反応に、彼女は口の端を釣り上げた。
もう少しいじってやりたいが、蛇のことを考えるとあまり時間が無い。
美影は顔にかかっていた髪の毛を掻き上げると、その手で少年の情欲を煽るように己の身体をなぞり、赤いスカートのすそを抓んで持ち上げた。
そして、両足の付け根を覆う白い布をたっぷりと少年の目に焼き付けさせてやると、腰を浮かしながらスカートの裾から指を離した。
そのまま彼女は、少年の学生服のズボンに指を伸ばし、内側から押し上げられるチャックを下ろしていく。
衣服の拘束を解かれた肉棒が、チャックの合わせ目を押し開き、下着を突きあげるようにして起き上がる。
美影は薄い布越しに屹立を一撫ですると、下着の前の合わせ目を開いて肉棒を解放した。色素の薄い、未だ成長途上にある肉棒に美影は微笑むと、己の股間に手を伸ばした。
下着のクロッチに指をふれると、そこがしっとりと湿っているのが分かる。
彼女はクロッチ部に指を引っ掛けて軽くずらし、腰を浮かせて肉棒を握る。
美君と彼女の手の中で、少年の屹立が跳ねるが、彼女は構うことなく腰を下ろした。
熱く、固く、柔らかな異物感が、彼女の胎内に生じる。
同時に、彼女の胎内に織り込まれた柔らかな膣肉が、挿入された屹立に絡みつき、甘い快感を与えた。
「ああ…!」
恐らく初めてであろう女体の感触に、少年が声を上げる。
幼さの残る顔を快感の苦悶に歪めながら、必死に膨れ上がる欲望に抗っている。
無理もない。彼女の膣はその慎ましやかな外見とは裏腹に、みっちりと詰まった淫肉が柔らかな襞を成し、肉棒に絡みついているのだ。
仮に彼女が本気で肉棒を刺激すれば、性経験豊富な成人男性でも楽に絶頂に追いやっただろう。
しかし彼女の胎内はゆるゆるとした蠕動を繰り返すばかりで、決定的な刺激を肉棒に与えなかった。美影が、肉棒全体をゆっくりと味わっていたからだ。
少しだけ汗ばんだ幹の皮膚の塩味、先端から滲み出す先走りの仄かな苦み。
口ならばその程度の味のはずの肉棒が、彼女の体内では酷く甘美なものに感じられる。
「あぁ…おいしい…」
膣襞に染み込む肉棒の味に、彼女は陶然と鳴りながらささやいた。
できればこのまま味わっていたい。そんな思いが彼女の胸中に芽生える。
しかし、その思いを諌めるかのように、彼女の腹に疼きと蠢きが生じた。
『口に含んでいるだけじゃだめだ。早く飲んでくれ』
頭を下にした蟻の紋様からの疼きは、まるで催促するようだった。
(そうやった、とっととアイツ追っかけんと…)
一瞬本気で蛇のことを忘れていた彼女は、腹の蟻の蠢きに全てを思い出した。
そして同時に、肉棒からほとばしるであろうモノの味を予想し、彼女は期待に薄い胸を膨らませつつ膣壁を蠢かせた。
未成熟なペニスに、しとどに濡れそぼった柔らかな肉が絡みつき、己の襞を肉棒に刻みこむように、あるいは肉襞で肉棒の型を取ろうとするかのように締め付けた。
「うぁっ…ああっ…!」
少年が低い声とともに背筋をそらせ、腰を震わせた。
みっしりと詰まった膣肉の隙間に、熱く粘っこい物が注ぎ込まれる。少年の精液だ。
「んぁ…あぁ…ん…」
胎内に広がる熱に、美影は鼻にかかった声を漏らした。
胎内に放出される精液のもたらす快感と、膣襞から伝えられる体液の味によるものだ。
体奥に注ぎ込まれる粘っこい熱が、暗く淫靡な火を彼女の心の奥底に灯した。
同時に、高級なステーキの肉汁を思わせる豊潤な味わいを孕んだ精液が、彼女にもっと飲みたいという衝動を宿す。
「あぁん…もっとぉ…」
スカートの下で、美影の腰がぐるりと円を描くように動き、体内の膣襞がぐじゅりと
未だ硬さを保つ肉棒に絡みついた。
「ひぐっ!?」
「ほらぁ…もっと出してぇなぁ…」
射精直後の肉棒への刺激に裏返った声を漏らす少年に向けて、彼女はゆっくりと腰をゆすりつつ言った。
「あっ、あっ…あっ…!」
精液と愛液の混ざり合った体液に包まれながら、少年の分身が襞越しにしなやかな膣壁に包みこまれ、揉みほぐされ、再び高みへ引き上げられていく。
そして、膣全体がきゅっとすぼまり、肉棒の先端、祈祷に刻まれた鈴口に寄せられた何かが、尿道を吸った。
瞬間、少年の胎内でくすぶっていた興奮が強引に押し上げられ、文字通り体の奥底から欲望が啜り出されていった。
「うぁ…あぁぁ…!」
尿道を通り抜けて行く濃い体液の感触に、強烈な快感と鈍い苦痛を覚えながら、少年が声を上げた。
その一方で、美影は再び注ぎ込まれた少年の精液に、空を仰ぎながら恍惚とした表情で甘い吐息を漏らしていた。
胎内の熱い肉棒と精液の感触に性欲が満たされ、体奥に生じる味わいに食欲が満たされる。
そして無意識のうちに、彼女の膣壁はさらなる精液を絞り出そうと収縮と蠕動を繰り返し、肉棒に刺激を与えた。
彼女の胎内の筋肉と腹筋によって、きゅっと締まった腹が波打ち、あたかもへそを中心に浮かび上がる頭をした蟻の模様が蠢いているかのように見えた。
「も、もうやめてぇ…!」
二度の射精と、それでもなお加えられる甘い刺激に、少年は懇願めいた拒絶の声を上げた。
遅れて、少年の手足が弱々しく地面をひっかき、美影の下から逃れようとした。
「あぁん!…ん、まだやて…」
不意の少年の動きに膣内を掻き回され、一瞬甘い声を漏らすが、彼女は上半身を倒して少年に覆いかぶさりながら、逃亡を阻止した。
「はなしてぇ…!」
「もうちょっと頑張ろうなぁ…男の子やろ…?」
「やだぁ…もう出ない…」
「嘘や。こぉんなにガッチガチにして…」
「うぐ…うぅぐ…」
少年の肩を肘で抑え、頬に手を添えながらの言葉に、彼は弱々しくすすり泣いた。
性欲と食欲に蝕まれた美影の意識に、ごくわずかな罪悪感が生まれる。
「しかたないなあ…じゃあ、後一回頑張ったら終わりな?頑張れるやろ?」
美影の言葉に、少年は逡巡ののち、弱々しく頷いた。
「よしよし」
彼女はそう言うと、先ほどより意識して抑えながら、腰と膣内を動かした。
胎内に残る精液を、余すことなく吸収するためである。膣内に残っていた精液が、蠕動と吸引により彼女の身体の奥の奥へ吸い上げられていった。
同時に、屹立に絡みついた粘膜が、肉棒の表面を撫であげた。
「ひぐっ」
少年が上ずった声とともに体を震わせ、屹立がその固さを増し、びくんと震えた。
意識が限界を感じていても、身体は快感に応えているのだ。
(たっぷり可愛がれば、いっぱい出そうやな)
最後の一回の約束だから、可能な限りたっぷりと搾らねば。
膣内の精液を啜り終えると、美影は膣壁の動きを穏やかなものにした。
快感を与えて少年を昂ぶらせつつ、それでいてうっかり暴発させない程度に抑えながらだ。
粘膜の襞の間から愛液を滲ませ、刺激を和らげながらも彼女は愛撫を続けた。
先ほどまでの、強引に吸い上げるような責めではなく、粘液を隔てた柔らかな肉の動きに、少年は徐々に押し上げられていった。
色の白い幹に浮かんだ血管に、襞が寄せられ愛液を擦り付けて行く。
ぷっくりと膨らみつつも半分が包皮に覆われたままの亀頭に、降りてきた子宮口が接吻を繰り返す。
美影の胎内の一挙一動が、少年の興奮を少しずつ高め、絶頂へ追い詰めて行く。
「あっ…うぁ…んぁ、あ…!」
少年はじれったいながらも甘い快感に、先ほど二度射精したとは思えないほどの早さで限界に追いやられた。
美影の膣壁の動きに、彼自身の肉棒の脈動が加わり、蠕動に変化が生まれる。
そして変化していく快感に、少年が三度目の性を放ちそうになった瞬間、美影の膣がぴたりと動きを止めた。
「え…へ…?」
突然途切れた股間からの快感に、少年が間の抜けた疑問の声を漏らす。
「最後の一回やからね…いぃっぱい我慢して…たぁっぷり出してな…」
その瞬間、視界に広がる美影の顔が、少年には恐ろしいものに見えた。
直後、少年の肉棒にまとわりつく滑る粘膜が蠢き、少しだけ興奮の冷めた彼の精神に快感を叩きこんだ。
背骨を鈍い快感が駆け上り、少年の意識の内で火花が散る。
肉体が与えられた快感に呼応し、肉棒を大きく脈打たせ、射精の兆しを見せる。
しかし屹立を包む肉壺は、絶頂の気配を悟るや動きを止め、快感を絶った。
生煮えの興奮だけが取り残され、生温かい膣内で肉棒の脈動が静まっていく。そして快感の予兆が消えたところで、美影は蠕動を再開させた。
愛撫し、射精の予兆を感じれば止める。ゆっくり、じっくり、シチューを煮込むようにして興奮を熟成させていく。
少年の体内で、放たれるはずだった精液がとどまり、続く精液が加えられ、静かな興奮によって煮詰められていく。
「も、もう…ださせてぇ…!」
少年が涙を滲ませながら、射精を乞う。
だが美影は彼の言葉に耳を傾けることなく、黙々と興奮と快感の醸造を続けた。
絶頂を求めてすすり泣く少年と、顔を紅潮させながら腰を揺する少女。傍目から見れば、完全に少女による少年への強姦であった。
しかし、実のところ射精を求めていたのは少年ばかりではなかった。美影本人もまた、彼と同じかそれ以上に射精の瞬間を欲していたのだ。
胎内で肉棒が脈動し、膣壁を押し広げる。体奥をこじ開けられるような感触に、彼女は己を忘れて更に深く深く肉棒を受け入れたいという衝動に駆られるが、すんでのところで踏みとどまる。
もっと焦らした方がいい。もっと待った方がいい。その方がもっと美味しく、もっと気持ち良くなる。
その一方で、彼女の胎内では子宮が、膣が、精液を欲していた。彼女の意識に逆らい、肉棒を絞りあげようと蠕動し、腹に浮かぶ蟻の紋様を蠢かせた。
頭を下にした蟻の紋様の奥で、彼女の肉体が精液を啜り取ろうと蠢動している。
(あかん…もう我慢できへん…)
嗜虐の悦びと、肉体への快感、そして我慢による昂り切った興奮に彼女は瞳を潤ませながら、己の限界を悟った。
「出させてぇ…出させてぇ…んむぐっ!?」
射精を懇願する少年の口に自身のそれを重ねながら、彼女は一気に膣内を動かした。
襞が絡み、まとわりつき、凹凸をなぞり、締め上げ、吸い、搾る。
少年の胎内でくすぶっていた興奮が一気に爆発し、精液という形で迸って行った。
「…!…!!」
唇を塞がれたまま少年がくぐもった声を漏らし、手足を震わせながら猛りに猛った肉棒から、溜まりに溜まった精液を放つ。
煮えたぎった少年の興奮は、美影の体奥を灼きながら注ぎ込まれていき、彼女の蠕動に合わせて奥へと導かれていった。
身体の奥底に注ぎ込まれる精液が美影を快感と興奮で焦がし、その味わいが彼女を天上のいずこかへ導いていく。
だが、彼女が快感と興奮に浸っている一方で、彼女の体内に新たな欲望が芽生えていた。
彼女は腹の奥底に生じていた何かを、己の欲求に従い、素直に吐き出した。
重なり合った二人の唇の間を、美影から少年へ何かが移動していった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



巫女装束の少女から十分に距離を置き、蛇はとりあえず一安心していた。
捕食中の完全に無防備な瞬間に、彼女から襲撃を受けた時は蛇も焦りを覚えたが、彼女の気配を覚えた今となっては恐るるに至らなかった。
十分距離を置いた今なら、捕食中に彼女が近付いてこようとも十分逃げられるからだ。
それに、完全に消化吸収が済んだ今なら、返り討ちにしてやることも可能だ。
「ぎぢぎぢぎぢ」
蛇は音を立てながら、元の細さに戻った胴を揺らし、かなり太くなった足で地面をひっかいた。
だが蛇は用心深く、わざわざ己の身を危険に晒すような真似はしない。
「ぎぢぎぢぎぢぎぢ…」
蛇は巫女装束の少女の気配を探りながら、これからの行動について考えた。
彼女はこちらにゆっくりと向かっているようだが、彼我にはまだ大分距離がある。
今から逃げて距離を稼ぐもよし、己の欲求に従ってもう一人捕食してから逃走するもよし。
腹が満たされたことである程度理性的になった蛇は、間を取って逃走しながら出会った人間を捕食することにした。
「ぎぢぎぢぎぢ…」
甲殻に包まれた四肢でカチカチとアスファルトを鳴らしながら向きを変え、巫女装束の少女と逆の方向へ向き直る。
そして、蛇が進もうとした瞬間、前方の曲がり角から人影が現れた。
黒い服に身を包んだ少年だった。
金色のボタンが並ぶ上着の上には、まだ幼さの残る顔が乗っていた。
表情はなく、いくらか髪が乱れてはいたが、蛇は気がつかなかった上関係のないことだった。蛇にとって、唯一の天敵はあの少女であり、人間は蛇の捕食対象でしかなかったのだから。
「ぎぢぎぢぎぢ!」
蛇は威嚇と獲物を怯ませる音を立てると、体をくねらせつつ、地面を引っ掻きながら突進した。
そして文字通り人を一飲みにできるほど口を開き、全身のバネを使って少年に躍りかかった。
真っ黒な体表面とは対照的な、鮮やかな桃色の肉がみっちりと詰まった内側が、少年に迫る。
しかし、彼の頭頂が蛇の口内に収まりそうになった瞬間、彼は身をひねりながら半歩退いた。
狙いが外れ、彼の全身を飲み込むはずだった蛇が、彼の肩を掠めて地面に落下していく。
だが少年の動きはそれだけにとどまらず、ひねった身を戻しながらの拳の一撃が、蛇の胴に炸裂した。
分厚い、刃物も通さない黒い鱗を衝撃が通り抜け、蛇の肉体で炸裂する。
「ぎぢぎっ!?」
自由落下の起動をゆがめられながら蛇は音を立てアスファルトに叩きつけられ、少年は拳を緩めて蛇の四肢を握った。
直後、蛇の身体が再び宙を舞った。蛇を一瞬の浮遊感と、直後の強烈な衝撃が襲う。
足をつかまれて持ち上げられ勢いそのままに叩きつけられた、と気が付いたのは二度目の浮遊感に包まれた時だった。
蛇はとっさにつかまれていない四肢を操り、急接近するアスファルト向けて突き出し、衝突を防いだ。
そして少年が三度目の振り上げに映る直前、尻尾で彼の足を払った。
少年がバランスを崩して転倒し、足を握る指が緩む。
蛇は少年の手から足を振りほどくと、跳躍して距離をとりつつ姿勢を整えた。
「ぎぢぎぢ…」
ゆっくりと地面に手を突いて立ち上がる少年をにらみながら、蛇は威嚇の音を立てた。
目の前の少年は、蛇が知る限りの人間の力を凌駕していた。同時に、彼の気配を探ると蛇自身と似た何かを感じる。
恐らく少年は蛇と同族の何者か、即ち妖魔の分身か本体を身体に宿しているのだろう。
ならばあの馬鹿げた膂力も理解できる。
少年の拳と地面への叩きつけによるダメージは意外と大きく、魔力を消費しての身体修復を要するほどだった。幸い修復は分析の間に終わったが、消費した分を補わなければならない。
蛇は目の前の少年を捕食して、魔力を補給することにした。
少年がただの人間でも十分に元が取れるというのに、妖魔を抱え込んでいるのだ。多少の負傷をしても捕食する価値は十分にあった。
「ぎぢぎぢぎぢぎぢ…」
蛇の口がみしみしと音を立てて裂け、人どころか自動車さえも丸のみにできそうな大きさに変形する。
「……」
蛇の変形に対し少年は拳を握り、僅かに腰をかがめて身構えた。同時に地面を踏みしめる蛇の四肢がたわみ、力が籠っていく。
そしてほぼ同時に、少年と蛇が動いた。少年が地面を蹴り、蛇が弾けるような勢いで跳躍する。
蛇の口がバックリと開き、少年の握った拳が口の端を打つ。衝撃によって、身の丈よりも巨大な穴に飛び込みつつあった少年の身体が、蛇の口の外へと逸れた。
蛇は少年の拳によろめきつつも、宙に浮いた四肢を伸ばし、甲殻に覆われた鋭い指で少年を捕えようとした。
だが少年は己をつかもうとする手を逆に捕え、ひねりあげるように捩った。
無論少年の身体は宙に在り、蛇の四肢は地面を捉えている。よって少年の身体が逆にねじり上げられるわけだが、それこそが狙いであった。
蛇の背中に少年の身体が移り、蛇の足を握るのとは反対の手が、蛇の背中にかかる。
同時に、少年は握っていた指を緩め、蛇の背中に飛び移った。
そして彼が拳を握り締め、蛇の背中に振り下ろそうとした瞬間、彼の動きが一瞬止まった。
妙な浮遊感が、彼の全身を支配したからだ。
はたと彼が気が付き、蛇の背中から目を離してみれば、蛇はいつの間にか足で体を支えたまま、身を起こしていた。このまま背中ごと倒れ込んで叩きつけるつもりなのだ。
少年が蛇の目的を悟るや手を離そうとするが、逆に蛇の指が少年の身体を押さえ込んだ。
蛇が仰け反り、蛇と少年の上下が入れ替わっていく。
しかし、完全に蛇が反り繰り返る直前、真横から飛来した何かが蛇の胴を打ち据え、その体勢を崩した。
地面との激突を避けるため、蛇は少年を抑えていた足を離し、地面に向けて突き出した。そして転倒を防ぎながら、何かが飛来した方向に顔を向けた。
蛇の目が、道の向こうに立つほっそりとした人影を捉える。
つい先ほど蛇を追いかけた巫女装束の少女、鈴華美影だった。先ほどまで持っていたはずの錫杖はなかったが、危険であることには変わりない。
「ぎぢぎぢ…」
蛇は内心自身の失策を悔いた。少年にかまけていたおかげで、彼女の接近に気が付かなかったのだ。
蛇は歯噛みしつつ、美影を視界に捉えながら逃走経路を探るため、頭部を少しだけ傾けた。すると、蛇の視野に細く長い影が映り込んだ。
地面に投影される細長い影を片目で追うと、影は蛇自身の影から伸びている。長い棒が、蛇の首のあたりを貫いていたのだ。
先ほど蛇を打ちすえた衝撃は、美影が投擲した錫杖によるものだったのだ。
「ぎぢっ!?」
蛇はようやく自身を貫く錫杖からの激痛に、苦痛の呻きを上げた。
とっさに地面を踏みしめる前足を持ち上げ、錫杖を引き抜こうとするが、微妙に届かない。
蛇は体内の魔力を消費し、前足を伸ばそうと試みた。
だが、肉体が蛇の意思に呼応する寸前、胴に鈍い衝撃が叩きこまれる。
衝撃にバランスを崩して傾いていく視界に少年の影が映り、転倒に伴い錫杖の石突が地面に触れ、蛇の傷口を擦りながら錫杖が動いた。
激痛に集中が掻き消え、蛇は音を立てた。
「ぎぢぎぢぎぢぎぢ!」
「よぉ手間掛けさせてくれたなあ…これで仕舞や」
巫女装束の懐から札を出すと、美影は蛇に向けてそれを投げつけた。
蛇の黒い鱗に札が貼りつき、ぼんやりとした光を放ち始める。蛇は覚悟を決めたが、予想していた爆発は起こらなかった。
そして動かそうとした四肢がピクリとも動かなくなっていることに、蛇は気が付いた。
雑木林で樹木を爆破したそれではなく、一時的に動きを封じる術符だったのだ。
「ぎぢ…?」
なぜ爆破しない?と蛇の胸中に疑問が浮かぶが、すぐに氷解した。
少女と少年が蛇の側に歩み寄り、少女が口を開いたのだ。
「ほな、そっち握って。いっせーの、でな」
蛇の身体に、二人の手が掛った。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



夜の街に建ち並ぶ大型建築の一つの屋上に、一つの影が立っていた。
屋上の縁、ぎりぎりに立つその様はまさに自殺志願者であったが、影から届く声を聞く限り、それが自殺などしそうにないことが分かる。
「美影くんの気配ぺろぺろ。美影くんの気配ぺろぺろ」
それは少しだけ上体を曲げ、建ち並ぶ建物と建物の向こうを凝視していた。
それの視線を追って、追って、追って、望遠鏡より天体望遠鏡が必要になるほどの距離にある公園に、いくつもの影があった。
大きな影が一つに、小さな影が複数。
大きな影は、それこそ自動車ほどはありそうな女の頭だった。側頭部から六本の甲殻に包まれた足と一対の鋏を伸ばすその外観は、まさに蟹であった。
だが、蟹の巨大とはいえ整ったその顔は苦痛に歪み、肌には複数の傷、脚と鋏には罅が入っていた。
それらの原因は、全て蟹を囲む人影―あどけなさの残る少年たちにあった。
「きぃきぃきぃ!」
蟹が声を上げ、周囲を囲む人影に向けて鋏を振る。
鋏の射程内にいた少年たちが、瞬時に跳躍して退き、あるいは屈んで鋏をかわす。
そしてがら空きになった蟹の後部に、別な少年が飛び付いた。
彼は波打つ豊かな髪にしがみつくと、力任せに毛髪をむしり始めた。
「きぃきぃきぃ!」
蟹が叫び、毛髪がざわりと逆立って少年を取り押さえるべく蠢く。しかし彼は四肢に絡みついた毛を引きちぎると、早々に蟹の後部から飛び降りた。
そして今度は、別な少年が蟹の脚に駆けより、固めた拳を打ちこんだ。
鈍い音とともに、すでに脚に入っていた罅が一つとなり、甲殻が割れる。
「きぃきぃ!?」
損壊し、体重を支えきれなくなった脚が折れ曲がり、蟹の身体が傾く。
バランスを取り戻そうと蟹が攻撃から意識をそらした瞬間、少年たちが蟹の全身に躍りかかり、群がった。
しがみ付いて毛を毟り、詰め寄って甲殻に拳を振るい、かじりついて皮膚を引き裂く。
一瞬の隙を晒したばかりに、蟹は甚大なダメージを被っていた。
「きぃきぃきぃきぃ!」
蟹が絶叫しながら鋏を振るい、無事な脚を操って向きを変え、必死に群がる少年たちを振り払おうとする。
しかし蟹の努力も空しく、少年たちは巧みに入れ替わり立ち替わりしながら、徐々に蟹を追い詰めていた。
そして、蟹と少年たちから少し離れたところに、もう二つの影があった。
巫女装束の少女と、少年だ。
地面に足を投げ出して座る少年の上に美影が跨り、腰をゆるゆると揺すりながら、胸元に少年の頭を抱きよせていた。
膝ほどまでおろされた少年のズボンと、腰を揺するたびにスカートの裾から覗く彼女の尻、そして辺りに響く粘着質な水音が、二人が交わっていることを示していた。
「あっ、あぁっ…!」
少年が顔を美影の胸元から離し、仰け反りながら喘ぐ。
眉根を寄せ、苦悶にも取れる表情を浮かべる少年の様相は、絶頂寸前であることを物語っていた。
「たあっぷり出してえな…」
意識を苛む快感を必死に堪える少年に、彼女はそう囁きかけると軽く頭を撫で、唇を重ねてやった。
そして僅かに浮かせていた腰を沈め、少年の屹立を深く咥え込むと、彼女は胎内の粘膜を蠢かせた。
びくびくと脈動する肉棒が肉襞の蠕動に晒され、少年の意識がひといきに押し上げられる。
直後、美影の体内に熱が迸った。
「んっ…!んん…!」
粘る欲情を放ち、受け止めながら、二人は重なった唇の間から微かな声を漏らした。
少年の放った精が美影の肉壺を灼き、精を啜る粘膜の動きが少年に快感を注ぐ。
やがて、彼女に注がれた精が魔力へと変換され、美影の体内に存在するモノを成熟させる。
十分に育ち切ったソレは彼女の食道を遡り、口を通じて少年の口へ入って行った。
「っ!?」
口内に押し込められた何かに、少年は一瞬驚きを覚えるが、股間を苛む肉襞の動きと続く射精に抵抗の意思を失った。
彼の口内に押し込められたものが、食道を伝って彼の体内に侵入する。
そして射精が終わるころには、彼に侵入したモノが完全に彼を作り変えていた。
「ふふ、おしまい…」
尿道に残る一滴まで啜り取ると、美影は最後に少年の頭を一撫でしてから腰を上げた。
にちゃり、と音を立てながら、少年の屹立と美影の股の間に糸が引いた。
美影は股間の滑りを指で拭うと、興奮の冷めやらぬ表情で少年に目を向けた。
しかし少年は、つい先ほどまでの苦悶めいた随喜の表情を?き消しており、まっすぐな瞳で彼女を見返すばかりだった。
「ほな、行って来」
美影の一言に少年は頷くと、立ち上がりながらズボンを引き上げ、蟹とそれに群がる少年達の下へ駈け出して行った。
「うふふふふ…」
少年たちに群がられ、着実に弱っていく蟹を見ながら、美影は低く笑みを漏らした。
蟹に群がり、甲殻を砕き、皮膚を抉り、毛髪を毟る。自身より巨大な相手を、少しずつ解体していくその様は、正に蟻だった。
事実、美影と少年たちの関係は、女王蟻と兵隊蟻の関係そのものであった。
兵隊が食事を女王に運び、女王が新たな兵隊を生み出す。姿こそ人間ではあったが、美影も少年も、完全に蟻と化していた。
だが、美影はその事実にほんの一欠けの疑念も抱いていなかった。
蟻の憑神は最期に『強くなりたい、生きたい』と欲し、願い、その欲望に基づいて蟻妖魔を美影の体内に生み出したのだ。そして死の間際の一念より生じた妖魔は、彼女の肉体ではなく精神を主軸に置いて改造したのだ。
それも強烈な暗示によって精神を歪めるのではなく、認識と常識を書き換えることにより、『以前からすべてそうだった』と違和感を掻き消すという、極めて巧妙な手段でだ。
その結果、彼女は腹に浮かび上がった蟻の模様に疑念を抱かず、栄養補給のために精の摂取を躊躇いなく行い、兵隊蟻を増やすために接吻を通じて卵を当り前のように産み付けたのだ。
お陰で肉体の方は精液の摂取による栄養補給能力と、身体能力の向上、兵隊アリ生産のための産卵機能の付与程度の改造に留まった。
だが、その程度の改造でも彼女は着実に兵隊を作り出して、数日のうちに彼女を女王とする蟻の一団は数を増し、現在に至ったわけだ。
「きぃきぃきぃきぃきぃきぃ!」
膣口にへばりついた交わりの残滓を拭っているうち、彼女の耳に絶叫が届いた。
顔を上げた彼女の視線の先で、彼女の兵士たちが蟹に群がり、殻を砕いて身を引き毟っている。
「きぃきぃきぃきぃきぃきぃきぃきぃきぃ!」
足を砕かれ、剥き出しの肉もいくらか抉られた蟹が、次第に弱々しくなる声を漏らしながら、ついに崩れ落ちた。
ほぼ抵抗力を失った蟹に、一斉に少年たちが取り付き、兵隊蟻としての本分を存分に発揮する。
脚を掴み、強引に引きちぎる。傷口に腕を挿し込み、さらに深く、広く肉を抉る。毛髪を握り、次から次へと引き毟る。
巨体を支えていた六本の脚が、電信柱さえも切断できた頑健な鋏が、緩やかに波打っていた豊かな黒髪が、巨大とはいえ整った美貌が、少年たちの手によって解体されていく。
そして少年の姿をした兵隊蟻たちは、蟹からむしり取った肉を、そのまま貪り始めたのだ。
肉を引き裂き、千切り、噛みしめ、嚥下する音が辺りに響いた。
程なくして、少年達が自然と蟹の居た辺りから離れる。そこに蟹の姿はおろか、肉一塊り、甲殻の一欠けすら残っていなかった。
少年たちは蟹が完全に消滅したことを確認すると、美影の命令もなく、自ずと二手に分かれた。
一つは公園の外へ。新たなる兵隊蟻となる少年を連れてくるため。
もう一方は美影の下へ。つい先ほど摂取したばかりの栄養を、美影に捧げるため。
「うふふ…」
歩み寄る少年たちに、美影は蟹を倒したことに対する労いの言葉ではなく、スカートを脱ぎ下ろして両脚を広げることで応えた。
下腹から胸、首筋までが露になり、臍を中心とする頭を下にした蟻の紋様が晒け出された。
蟻の模様は彼女の呼吸に合わせて動く腹のお陰で、まるで女陰に肉棒が挿し込まれるのを期待しているかのようだった。そしてそれは事実、彼女の願いでもあった。
「早く来てぇな…」
甘く、切なさを孕んだ彼女の求めの言葉に、屹立をズボンから出した兵隊蟻の一人が、彼女に覆い被さっていった。
「美影くんの気配ぺろぺろ。美影くんの気配ぺろぺろ」
公園から遠く離れた所に立つ、ソレの視界で美影が悦びに表情を歪めながら仰け反っていた。
少年たちによって、代わる代わる蹂躙される様は一見すると悲惨だが、彼女の表情は一片の嫌悪も滲ませていなかった。むしろ、悦んでいると言ってもいいほどだ。
これがただの輪強姦ならば、ソレは即座に飛び出して行って少年たちを叩きのめしていただろう。
だが彼女の表情は無論、彼女が妖魔に憑り付かれていることさえも完全に把握した今となっては、ソレに止める理由は無かった。
たとえ妖魔によって植えつけられた欲望であっても、仲間を増やし、着実に強くなりつつある彼女からは、悦びしか感じられないからだ。
本人が嫌がっていないのに、止めなければならないことがあるだろうか?
それに、もはやソレにとって彼女は美影ではなかったが、元に戻すために彼女の人格に手を加えるのは、蟻妖魔が美影を歪めたのと変わらないと、ソレは考えていた。
「美影くんの気配ぺろぺろ。美影くんの気配ぺろぺろ」
蟻妖魔の気配からわずかに漂う、美影の気配を味わいながら、それはただ凝視していた。




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